捕獲

 
     
 


緑間真太郎という人間は正直で素直だ。
そのプレイスタイルと寸分違わず真っ直ぐな性質をしている。
おかげで非常に使いやすく使いづらい人材だった。
理に適った事であれば率先して従うが、少しでも疑問に思う事があれば、納得するまでは動かない。
彼を思い通りに利用するには、彼を納得させる為の理由が必要となる。

(例外はある)

正しい人というのは、情に厚く、脆い。
一度その身内に受け入れた者を蔑ろにする事ができなくなる。
少しずつ、少しずつ、側に近付いていく為に赤司は少しの思案をめぐらす必要があった。


将棋というツールは、有効だった。
特に言葉にせずとも緑間の考えがわかり、自分の思いが伝わるからだ。
静かだけれど、熱い。
負けないという気持ちだけが盤面に広がる。

(負けたくないのではなく、負けない・・・か)

自分が敗北する事をかけらほども思っていない。
そして、勝つとも思っていない。
その曖昧な境界線が、緑間の甘さであり、優しさであり、弱さだ。

(もっと、強くあれ)

無我夢中で勝利を欲しなければ、その手をすりぬけていく。


ひと勝負終え、緑間は眉根を寄せたまま、盤面を見詰めている。
棋譜を追い、敗北の要因を探しているのだろう。

「緑間」

名を呼ぶと難しい表情のまま顔を上げた。
机を乗り越えて、赤司は緑間に口付ける。
驚いて反射的に逃げようとする緑間の頬を両手で包んで、口唇を啄み、さらに深く重ねた。
歯列を割って奥へと舌を滑らせ、戸惑う緑間を絡め取り、蹂躙する。

「・・・ん・・・ぁっ」

酸素を求めた緑間から、掠れた声が漏れた。
口の端から零れる液体を舌先で舐めとって、赤司は緑間から離れた。
紅潮した頬と困惑の色の隠せない瞳が熱をもつ。

「・・・赤司」

深い新緑の双眸に映る自分は思いの外必死な表情をしている。

「好きだ」

真っ直ぐな事を好む相手には真っ直ぐに。
言葉を与えるのも効果的だ。

「な、にを・・・」

信じてもらえない方がいい。
疑えばいい。
必要なのはその心内に入りこむ事だ。

「嘘じゃない。冗談でもない」

茫然とする緑間に優しく囁く。
それは、誘惑の呪文。

「ずっと、本気だった」

堕とす為の罠。
繋ぐ為の鎖。
静かな教室は夕暮れと共に薄暗く影を落としていく。


現状をどうにか把握した緑間は、『考えさせてくれ』とひと言残して、赤司の前から逃げて行った。

(功を焦りすぎたか・・・)

それでも、普段見る事のない表情を間近で見られたというのは、収穫のひとつかもしれない。
少しずつ近付いていく。
赤司は手にした玉の駒に口唇を落とし、鮮やかな笑みを浮かべた。



終わり



 
     
 

2012/07/31

 
     
 

赤緑。
175Qネタバレの話を書いてから、
思いつくままに書いてみた。
赤司は真綿で首を絞めるような、
ねちねちと攻めていって、
気がついたら逃げられないくらい、
がんじがらめに捕らえそうな気がする。