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経過 |
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「なぁ」 背中合わせで声をかける。 年上の人は黙々と問題集なんかとにらめっこしていてこっちには見向きもしない。 「今吉さん」 名前を呼ぶ。 呼んでも答えない。 ああ、なんて腹立たしい。 「なんや」 一分くらい間をおいての返事に、最初なんのことかわからなかった。 「なにが?」 「呼んだやろ」 ああ、と思う。 呼んだけど応答がなかったから、忘れたんだ。 「じゃまするんやったら帰れや」 「じゃまなんかしてねえだろ」 背中から伝わる体温がちょうどいい温かさだった。 シンプルで何もない部屋。 本棚にまんがと参考書と辞書。 あとは、床に詰まれたバスケ雑誌。 他は何もない。 机は使わずに、床に置いた座卓で勉強をする。 (眠い・・・) あくびをする。 それから、目を閉じる。 背中があったかい。 あったかくて、眠くなる。 (なあ、今吉さん。なんで、俺はアンタと一緒にいるんだろうな) なんで、こんなに甘やかすんだろうな。 俺達の間にバスケがなかったら、一緒にいられなかったんだろうか。 こんなにも居心地が好いのに。 *** 背中がずしりと重くなる。 (あー、寝たか) その重さを支えながら、数式を解いていく。 答えがひとつだけだから、数学は好きだった。 答えのない問題は、苦手だった。 背中から伝わる熱と重さは、答えのない問題だった。 (抱かれたいとかそーゆーことやろ) 抱きたいとは思わないのだから。 快楽が優先されるなら、それでもかまわない。 いっときの情に流されるのもいいかもしれない。 けれど、自分が求めているのはきっと違う関係なのかもしれない。 最強だと、こいつがいればてっぺんも狙えると、そう思えた。 だから、手放せなかった。 練習に出なくても試合で勝てたらそれでいいと思っていた。 だから、わがままを許し、甘やかした。 勝つことが全てだったからだ。 (せやけど、これは、誤算や) 餌付けをしたつもりはなかったが、野良犬が餌を与えてくれる家を覚えているかのように懐いてきた。 それは、気まぐれで、餌を用意していると近寄りもせず、餌を用意していない時ばかりを狙ってやってくる。 (ややこしいやっちゃ・・・) けれど、それがおもしろいと思っている自分もいる。 噛み付かれたと思えば、キスくらいは許せた。 そこから先は、ただの惰性だ。 「青峰。そないなとこで寝たら風邪ひくで」 温かな背中は現実で、耳元で聞こえる寝息が近い。 面倒くさいと思いながらも、座卓を退かし、そおっと青峰から離れた。 頭が床に落ちる前にクッションで受け止めて、それから、ベッドから毛布をおろして、掛けてやる。 気持ち良さそうな寝顔は、子供のようでなんだか可笑しい。 今吉は、立ったついでに両腕を伸ばして簡単なストレッチをする。 窓が、いつの間にか降り出した雨で濡れていた。 こんな関係は長く続かない。 続けさせない。 それだけは、決めていた。 終わり |
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2013/01/22 |
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※青今。 |
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