realize

 
     
 


放課後の教室。
窓側の一番後ろの席は、緑間の定位置だった。
視力は悪いが、背が高い分、席替えをしても前になる事はない。
一人居残る緑間を見つけて、青峰は緑間の前の席に座った。

「どうした?」

手にしていた本を読むでもなく、ただぼんやりと窓の外を眺めている。
珍しいこともあるものだと、その横顔を眺めた。

「・・・、オマエはいつも突然だな」

窓の外を見たまま、ぽつりと言う。
響く声は低くて、感情は読めない。

「てめぇが目立つからだろ」
「声をかける必要はないのだよ」
「なんでだよ」
「心配されたくない」
「してねえし」
「・・・・・・。なんでもないのだよ。本当になにもない」

そう言って、緑間は手にしていた本を開いてそのまま読み始めた。
話しかけるなと全力で拒絶するので、しかたなく青峰はそのまま机に突っ伏した。
寝てしまえば、気にもならない。
だけど、側にいる事はできる。
それだけだ。

***

「青峰・・・」

ゆらゆらと肩が揺れる。
優しい声が遠くで自分を呼ぶ。

「こんなところで熟睡するな。風邪をひく」

指先がそっと頭を撫でていく。

(なんで?)

何度も繰り返す疑問の回答はいまだになく、ただ空回りするだけだった。

(こんなに、好きなのに)

日に日に募る想いは抱えきれずにどんどん零れ落ちていく。
零れるだけじゃ済まなくて、時には直接ぶつけてしまう。
それでも、深緑色の瞳は真っ直ぐに前を見据えて揺らぐことはない。
動揺もしない。
ただ、困ったように断るばかりだ。

「なんで俺のこと好きになんねえの?」

頭を撫でる手首を掴んで、その指先にキスをする。
何度も繰り返す行為に意味はないけれど、触れたいという衝動を抑えるにはちょうどいい。

「青峰だからだろう?」

なんの躊躇いもなく、簡単に答える。
最初から用意されていたように。

「俺じゃなかったら、好きになんのかよ」
「そうかもな」

顔を上げると、眼鏡越しに緑間と目が合う。
濁り一つない、キレイな目だ。
そこに映る自分が好きで、そして、自分を見つめる緑間が好きで。

「マジでムカつく」
「いっそ嫌って欲しいくらいなのだよ」
「ぜってぇ、あきらめねぇ」

唸るように言い返せば、溜息だけがひとつ落ちていく。

「いいかげんに手を放せ。本が読めない」
「読むなよ。俺を見てればいいだろ」
「バカか」
「俺の相手しろよ」
「断る」
「なんでだよ」
「この本の貸出期限が今日までなのだよ」
「たまには怒られろ」

掴んだ右手を簡単に振り解けないように、指と指を絡ませて、青峰は自分の方へと引き寄せた。
緑間が何か言いたげな視線を返し、それでも諦めたのか、机の上に本を広げて、残りを読み始めた。

「なーあー」

テーピングされてはいない右手も爪がキレイに整えられている。
指の股をひとつずつ確認するようにぎゅっと握りしめた。

「緑間」
「なんだ」

本を読んでいる邪魔をしているというのに、返事だけはする。
こんな時でも律義なのだと、青峰は笑う。

「好きだ」

緑間の手の甲にキスをする。
何度でも繰り返す。
たとえ、返事がなくてもかまわない。
握る手が握り返してこなくてもかまわない。

「緑間」

名前を呼んで、その真剣な顔を見つめる。

「あと5分、がまんしろ」
「5分待てば何してくれんの?」
「図書室に行く」
「・・・そしたら、帰るんだろ?一緒に帰ろうぜ」

一方的に約束をする。
緑間は呆れるけれど、隣りに並ぶことを許すだろう。
今は、まだ、それでいい。

(本当に嫌われるより、ずっといい)

握った手に力を込めて、ぎゅっと繋ぐ。
このまま、ずっと、放したくなかった。



終わり



 
     
 

2012/10/04

 
     
 

帝光中学時代。2年生。
久しぶり?の青緑でした。
相変わらず進展しない堂々巡りな二人です。
緑間くんのほんの小さな異変(?)に気付いて、
でもなにもしないで、
ただ側にいるという、
なんとも健気な青峰くんにできあがってきました。
もっと傍若無人だと思ってたのにな。
好きな人に嫌われたくないのは、
誰でも抱える感情ですよね。
realize=気がつく。