napping

 
     
 


夏が過ぎ、通り過ぎる風が冷たくなり始めた頃。
校舎の屋上にひと気はなく、ただ遮るもののない陽だまりがそこにあった。
陽の高い、正午過ぎ。
程良く温まったコンクリートの上は心地好くて、青峰は寝転んだまま目を閉じた。
うとうととしかけた時、扉の開く音が聞こえた。
耳だけをすませば、やってきたのは一人だという事がわかる。
青峰より遠くない場所で足音は途絶え、どうやらその場に座ったらしい。
唐揚げときんぴらの香りがかすかに届くので、持参した弁当を食べ始めたようだ。
「から揚げ、ひとつよこせよ」
ごろりと寝がえりをうち、気配のする方を向いてから目をあけた。
屋上のフェンスを背に緑間が座って弁当を食べている。
テーピングの巻かれた左手が器用に口元まで運ぶ動きを下から見上げるのは、妙な気分を誘う。

「昼食を食べていないのか?」

視線がちらりと青峰の方を向く。

「食った。食ったけど、たんねーから」
「・・・仕方のないヤツなのだよ」

それは了解の合図だ。
四つん這いで緑間の元に移動した青峰のあけた口に唐揚げが一つ突っ込まれる。
しょうゆ味だった。

「サンキュ」

もぐもぐと食べ終わると、緑間の隣りに座った。

「寝るのか?」
「寝てたんだよ」

やわらかな日差しを受けながら、あくびをひとつ。
このまま寝てしまえば気持ちが良いだろうに、眠るのが少しもったいないとも思う。

「なんで屋上に来てんだよ」

昼休み、緑間がたまに姿を消すのは屋上に来ているからなのかと知る。
一人になりたいだけなのか、他に理由があるのか。

「オマエに関係ないのだよ」
「一緒にメシ食うヤツがいねえの?」
「必ずしも誰かと食べる必要はない。それを言うならオマエもなのだよ」
「オレは昼寝しに来たんだっつーの」

青峰は、いつも購買のパンか食堂の定食で昼食を済ましていた。
わざわざ昼食を食べに屋上へは来ないので、今まで緑間と一緒になる事がなかったのだろう。
もしくは、緑間が青峰がいる時を避けていたのかもしれない。
でも、今日は違った。
青峰が居ると知っていて、屋上にやってきたのだ。

「なぁ、俺、バカだから期待するんだけど」
「本当にバカだな」
「ちょっと黙れよ」

呆れた様な溜息を塞ぐように緑間に口付ける。
舌先を滑り込ませれば、食べたばかりの唐揚げの味が再び広がった。
黙って、おとなしく、キスをさせる緑間は卑怯だと、青峰は思う。

「少しは抵抗しろよ。嫌いなんだろ」

緑間を放して、その両目を覗き込む。

「殴って、蹴って、そうしたらやめるのか?」

真っ直ぐで揺らがない視線が青峰を突き刺してくる。
きれいだなと、その瞳に見惚れた。

「・・・やめねえ、かも」
「抵抗するだけ無駄というのだよ」

正直に答えれば、正直に返される。

「お前って、最低だよな」
「・・・否定はしない」
「そうやって、楽しいのかよ」

気持ちを知っていて振り回す。
悪いのは、緑間ではなく、その態度に惹かれてやまない自分の方だ。
責任を転嫁するつもりはないけれど、緑間のせいにしなければ、抱えきれない。

「オレは、ちゃんと答えただろう?青峰が嫌いだと。諦めないのはオマエの勝手なのだから、それを責められても困るのだよ」
「嫌いだったら、もっと嫌えよ」
「オマエがバスケ部のエースでなければ、そうしたかもしれない」
「くっそ。ムカつく」

べしっと自分の膝を叩いて、青峰は頭を抱えた。

「・・・・・・」

緑間は何も言わずに、弁当の残りを食べ始める。
昼休みが終わるまで後10分くらいかもしれない。

「どんどん好きにしかなんねぇ自分にムカつく」
「本当にバカだな」

呻くように呟いたら、真剣な声音で言われた。

「2回目」

じとりと睨むようにその横顔に目を向ける。

「何度でも、なのだよ」

視線は合わなかったけれど、緑間が笑ったように見えた。



終わり



 
     
 

2012/11/07

 
     
 

帝光中学時代。2年生。
napping=昼寝。
ひなたのコンクリートの上は、
あたたかくて気持ちいいよね。
ちょっとかたいけど。
くっつかないけどなんとか距離を縮めようと、
あの手この手で攻める青峰くんを、
ちょっと応援したくなっている、今日この頃。