無題1

 
     
 


「ほら」

青峰がひょいっと手のひらを差し出さすと、緑間はその手を覗き込んだ。

「ちげえよ。お前も手を出せ」

よく解っていないからか、緑間は躊躇いもせず右手を出した。
青峰はその手をぎゅっと掴んで、そのまま歩き出す。

「あ、青峰」

ようやく、事を理解した緑間が慌てた声を上げたが、時はすでに遅しである。
青峰がぎゅうっと握った手が簡単にほどけるわけがないのだ。

「は、放すのだよ」
「やだ」

青峰が手を引いて先を行くと、緑間は諦めたのかその隣りを歩きだした。
夕暮れの帰り道だった。
制服姿の二人は、少しだけ周りより背が高い。
外灯の下で影が濃く伸びては通り過ぎていく。
握った手のひらが少しずつしっとりと濡れたように感じるのは、どちらの汗だろうか。
青峰は何も言わなかった。
何かを言えば、この手が離れてしまいそうだったからだ。
そんな青峰に合わせているのか、それとも腹を立てているのか。
緑間も先刻から、何も言わなかった。
無言で、ただ、手を繋いで、歩く二人を気にする人はいなかった。
誰もが、自分のことで精一杯なのかもしれない。

「青峰」

沈黙を先に破ったのは、緑間だった。
青峰がぴたりと足を止めた。
視線を緑間に向けると酷く困った表情をしている。
いつもほぼ無表情で、怒るくらいしか感情が表にださない緑間が明らかに困っているのだ。
珍しいものを見たと、青峰は笑った。

「手が、痛いのだよ」

言われてみれば、緑間が振り解けないように強めに握り続けていたのだ。
鍛えていた握力であれば、確かに指先が痛くなってもおかしくなかった。

「あ、わりい」

慌ててぱっと手を放すと急に手のひらが冷たくなったようで、寂しくなる。

「そんなに強く握らなくとも逃げないのだよ」

ぷいっと目を逸らした緑間が指先を赤くしたまま青峰の前に差し出した。

「お、おう」

その手を今度はそっと握ると緑間も握り返してきた。
さっきよりもずっと繋いだ手が温かかった。



終わり



 
     
 

2013/04/01

 
     
 

帝光中学時代。
ついったーでちょこっと書いたものです。
ちょっと本誌に影響されて、初々しい二人になりました(笑)。