青緑の日

 
     
 


『明日、会いたい』

夜中に、思い立って、メールを送った。
朝になって返事があった。


***


中学時代、いつからか話さなくなった。
高校に入ってからも必要以上の会話はなかった。
かといって、仲が悪かったわけじゃない。
真っ直ぐに伸びた背中、口煩い小言、表情は乏しいけれど、人付き合いは悪くなかった。
身長が近かったせいで、常に間近で見れた顔は、メガネの奥に見える長い睫毛の女みたいな目。
きっと、馬鹿みたいに伸びてしまった身長がなければ、女にだって間違われたに違いない。
細い体と長い手足。
色白い肌に緑色の髪。
ずっと近くで見てきたのに、思い出せないことばかりなのは、それだけ思い出したくない時代だった。


「待たせたか?」

待ち合わせの場所は、駅前の時計塔の下。
小さな噴水のある広場には子供を連れた母親たちが集う。
緑間は、記憶と変わらないくらい背筋を伸ばした姿でやってきた。
黒の学ランが珍しくて、少し目を見張る。

「俺も今来たところ」

それは嘘だ。
待ち合わせをしたことに落ち着かなくて、一時間も前から駅前をぶらぶらしていた。

「オマエはもう少し身だしなみをどうにかした方がいいのだよ」

緩んだネクタイに視線を向けて、緑間が苦い顔をする。
中学の頃と全く変わっていないそれが嬉しくて、照れくさくて、笑ってしまう。

「変わったのは制服だけかよ」
「・・・それで?何の用だ?」
「別に。用なんてねえけど?」
「ならば帰る」

くるりと背を向けようとする緑間の腕を慌てて掴む。
どうして、こう、決断が早いのか。

「ま、待て」
「なんなのだよ」
「それは、こっちのセリフだ」
「オマエが会いたいとメールを寄越したから来たのだよ。それ以外の用がないのなら、もういいだろう?」

おかしなことは一つもないと言いたげな緑間を見れば、笑っても怒ってもいない。
中学の時から一緒にいたけれど、本当にわかりづらい男だと思う。
会いたいと言われてひょこひょこやってくるわりには、用がなければあっさりと帰ろうとする。

(お前は俺と会えて、なんか、ないのか?)

試合会場でもない場所で、こんな風に会うのはもしかしなくとも初めてだというのに。

「腹へったから、マジバ行こうぜ」
「・・・本当にノープランなのだな」
「うるせぇ」
「どうしてメールを寄越したのだよ」

掴まれた腕を振り解きもせずに、緑間が言う。
真っ直ぐに向かってくる視線を受け止めきれずに逸らしてしまう理由は、わかっている。

「思い出したんだよ、お前のこと」

バスケのこと。
それから、中学のころのこと。
一人のときに、少しずつ思い出すようになった。
いままで、どれだけ、余裕がなかったのか。
その隙間を埋めるように、中学時代のなんでもない光景が脳裏に浮かんでは消えていく中に、緑間の姿があった。

「・・・そうか」

緑間が笑った。
ほんの少しだけ口角を上げて、でも、確かに笑った。

(笑えんじゃねえかよ・・・)

そんな緑間は知らない。
知らない誰かと過ごしていた中で、自然に笑うようになった緑間を知らない。

「緑間」

名前を呼べば、目が合う。
けれど、何を言っていいのかわからない。
頭の中でぐるぐると渦巻く単語は、まだ早いと警鐘を鳴らし続ける。

「オレはオマエと会えて嬉しかったのだよ」

なのに、緑間は簡単にいろんなものを飛び越えてやってきた。
その言葉に他の意味はあるのか。

「・・・さっき、用がなきゃ帰るって言ったくせに」
「用はないのだろう?」
「俺と一緒にいるっていう用があんだろが!」

勢い任せに言い返したけれど、ひどく恥ずかしいことを言ったのではないかと、すぐに思って顔が熱くなった。
ほんの少しだけ目を丸くして、それから、それもそうなのだよって納得をするから、やっぱりこいつは感覚とテンポが少しズレているのだ。
その場にしゃがんで笑い出した俺に合わせて緑間もしゃがんだ。

「青峰、手を放せ。マジバに行くのだろう?」

ほら、やっぱり、おかしい。
だから、一緒にいても楽だと感じる。
この手を放したくなくて、少しだけ笑い続けた。



終わり



 
     
 

2013/05/06

 
     
 

高校青緑の日。
高校青緑は、中学でうまく行かなかった分、
なかなか一歩が踏み出せないような、
一からやり直すような、
そんなピュア展開もいいんじゃないかなぁ?って思ったんですが、
手の早い青峰くんの方が、
しっくりくるような気がしないでもないです。