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patience |
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体育館に向かう廊下で、見慣れた背中を見つけて、青峰は立ち止まった。 (緑間・・・?) 同年代の群集に混じると、やはり180センチを超える長身は目立つ。 自分とはほとんど差はないというのに、すっと伸びた背中がさらにその高さを際立てる。 無表情でまっすぐ前を向くその横顔は、本当に何を考えているのかわからない。 (腹減ったとか、思ってねえかな・・・?) 制服のズボンのポケットに手をつっこむと飴が三つほど出てきた。 今朝、同じクラスの女子が配っていた事を思い出す。 緑間はクラスメイトなのか、二人組の女子と何かを話していて、青峰には気付いてはいないようだった。 「なにしてんの?」 後ろからがっと腕を伸ばし、緑間と肩を組んで隣りに並ぶ。 「あ、青峰君!」 女子たちは驚いたように目を丸くして、顔を真っ赤にすると、逃げるように走り去っていく。 「あれぇ?邪魔しちゃった?」 間近になっても緑間の顔は変わらず無表情で、眼鏡の奥に見える長い睫が二度三度瞬きするのが良く見える。 「突然すぎたのだよ」 テーピングした指で眼鏡を押し上げ、小さな溜息を漏らす。 「なにが」 「手を出せ」 言われるままに青峰が左手を差し出すと緑間がそっとピンクの封筒をのせた。 「断ると言ったのだが押し付けられたのだよ」 「あー、さっきの・・・?」 逃げていった黒髪のおかっぱ頭の女子の顔をぼんやりと思い出すが、よく覚えていない。 ピンクの封筒を目の前にまで持ち上げてそれからポケットにつっこんだ。 読むかどうかはわからない。 ただその場で捨てなかったのは、緑間から渡されたせいだ。 「妬いた?」 「バカか」 あと少し近づけば頬にキスできそうな距離で、青峰は緑間を見ていた。 「つまんねぇの」 澄ました顔を崩したくて、青峰はそのまま緑間の耳を舐めるように甘く噛み付いた。 もちろん簡単に逃げられないように肩に回した腕に力を込める。 「あ、おみね・・・」 案の定驚いたように耳を押さえた緑間の顔が少しだけ赤く染まった。 その反応に満足して笑う。 「無防備すぎんだろ?」 今すぐ押し倒して、制服を剥ぎ取りたい衝動に駆られる。 無表情な顔が泣くところを見たい。 「警戒してどうするのだよ」 「俺に押し倒されてもいいのかよ」 眼鏡越しの視線が少し鋭く変化した。 意識された瞬間に気付いて、青峰は背筋に快感が走るのを感じた。 「欲望の塊だな」 呆れた様に呟いて、緑間が目をそらした。 「健全だろ?」 「不健全と言うのだよ」 肩に置かれた青峰の腕を引き剥がして、緑間が体育館の方へ歩き出した。 「ちょっとくらい相手しくれたっていーだろ?」 「もう十分相手をしたと思うが」 隣りを並んで歩きながら、青峰はポケットから飴を取り出した。 「腹減ってねぇ?」 「減ってないのだよ」 「飴、やるし」 緑間の手に無理矢理握らす。 「なんなのだよ、オマエは」 「腹減ってねぇかな?って思ったんだよ」 「空腹なのはオマエの方なのだよ、青峰」 飴を握った手で額をこつんと叩かれる。 「何?食っていいの?」 「断る」 「ぜってぇ、うまいのに」 「オマエが決めるな」 「味わうのは俺だろ?」 乾いた唇を舌で舐めて挑発すると、バカにつける薬はないのだよと言い捨てられた。 ポーカーフェイスの向こうで、自分を意識しているのかと思うとなんともいえない感情に満たされる。 (なんで俺の事好きになんねぇのかな) 好かれている自信はあるのだ。 その証拠に緑間は逃げない。 キスしても噛み付いても甘えても。 「緑間」 先を歩くその背中に声をかける。 聞こえなかったのか、無視されたのか、緑間は振り返らなかった。 終わり |
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2012/06/29 |
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帝光中学時代2年生。 |
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