黒緑

 
  ももしさんへの誕生日祝い その2  
     
 


「例え話をしましょう」
「突然なんだ」
「もし、僕が今緑間くんの目の前で倒れたとします」
「・・・迷惑なのだよ」
「そう言いつつ、意識を確かめ、様子を見て、僕を保健室に運んでくれるでしょう」
「・・・目の前なのだから、しかたがないのだよ」
「そんな緑間くんが好きです」

ドサドサドサッと、音を立てて落ちたのは、緑間が手にしていたクラス全員分のノートだ。
幸いなことに教務室へ向かう途中の廊下に他の生徒はいなかった。
緑間と黒子は一緒になって、その散らばったノートを拾う。

「からかっているのか」
「いいえ」
「本気か」
「はい」

溜息ひとつ。
拾ったノートを再び両手で抱えて、緑間は歩き出す。

「返事は必要か」
「まだいりません」
「まだ?」
「緑間くんは、僕に興味がありますか」
「それなりに」

緑間の隣りに並んで歩く黒子は、緑間の歩調が少し緩くなったことに気付く。

(ほら、だから優しいって言うんですよ)

好きでも嫌いでもないくせに、人を自然に気遣う。
その優しさが、もっと自分に向けばいいと思うから、行動に出る。
マイペースで鈍感な緑間には、積極的でなければ、きっと目にも入れてもらえないような気がした。

「バスケ部だからですか」
「オマエの実力は認めているのだよ」
「僕がいないと困りますか?」
「そうだな」

あっさりと答える緑間に、驚いたのは黒子の方だった。

(無意識って、本当に性質が悪いですね)

必要とされていることが、バスケ部の勝利に繋がることだとはいえ、そこは冗談にするわけでもなく、否定するわけでもなく、真摯に答えるのだから。

「緑間くんに僕は必要ですか」
「・・・オマエは答えはまだ要らないと言わなかったか?」
「いいました」
「黒子」
「はい」

緑間の視線が黒子の方を向く。
顔を上げれば、その目と合う。
感情を隠すクセがついたのは、こんな時に役に立つ。
それさえも見透かしそうな緑間の真っ直ぐな視線に動揺を見せてはいけない。

「オマエの存在は特別だ。いないと困る。それはバスケ部にとってだけではないと、思うのだよ」

真面目な顔で、思いがけないことを言うのだから、どうしようもない。
黒子は、堪え切れず頬が熱くなるのを感じた。

「ただ、ひとつ言えるのは、好きか嫌いかの二択であれば、オマエのことは嫌いじゃないのだよ、黒子」

緑間は、本日最大の爆弾を投下して、教務室の中へ行ってしまった。
仕掛けたのは自分だったというのに、反撃を受けて撃沈されるとは思わなかったと、黒子は真っ赤になった頬を両手で押さえて、その場にしゃがみ込んだ。

(緑間くん、不意打ちは卑怯です)

黒子は頬の熱がおさまるまで、しばらくその場で気配を消し続けた。



終わり



 
     
 

2013/04/15