黄緑

 
  いちさんへのお誕生日祝い☆  
     
 


さらさらと零れる砂のように。
過ぎた時は山となっていく。
それは、幸せか不幸せか。

「緑間っち」

呼ぶ名前は空に消え、その手には残らない。

「緑間っち」

会いたいと想う気持ちも、空に消えていく。

(今日も良い天気っスね)

雲ひとつない青空に目を細め、軽くもなく、重くもない足取りで歩きだす。
名前を呼ぶだけで、少し力が湧いてくると言ったら、笑われてしまうだろうか。
元気の出る魔法の呪文だと思った。


***


「知ってる?」

べったりとその背中に貼りついて、ぎゅうぎゅうと抱き締めた。
その体温に甘えて、目を閉じる。
久しぶりに会えた日は、人肌が恋しい。

「オレ、ほんとに緑間っちが好きなんスよ」

疑われているわけではない。
責められたわけではない。
それでも、時々、どうしようもなくなってしまう。
これを、寂しさと呼ぶのか不安と言うのか、よくわからない。

「知っているのだよ」

緑間に絡まっている手をひょいっと引き上げられて、見えない指先に触れる柔らかな感触に、背筋から下肢へと熱いものが流れていく。
緑間は、嘘を言わない。
たぶん。
疑ったことがない。

(嘘を言わないって、すごすぎる)

本当は、嘘ばかりなのかもしれない。
それこそが、嘘のように思えた。

「黄瀬」

ぎゅっと手を握られて、鼓動が激しくなっていく。
ただ、手が触れているだけなのに。
緑間の背中には顔も身体もぴったりくっついてるのだけれど、どこが違うのだろう。

「オレは、時々、オマエの名前を呼ぶことがある。そうすると、負の感情が消えていく気がするのだよ」

心臓が痛いくらいに鷲掴みにされたような気がした。

「緑間っちのバカ」
「は?なんなのだよ」

同じ想いを同じ感情を共有することはできないかもしれないけれど、同じことをしている。
少しずつ少しずつ共に過ごした時間が、それを呼び寄せるのかもしれない。
さらさらと零れる砂が足元に山を作る。
それは、幸せだったり不幸せだったりするのだろう。

「オレの名前は、魔法の呪文っスか」
「そこまで威力はないのだよ」
「……ちょっと、そこは素直に認めて欲しいんスけど」

緑間が笑ったような気配がした。

「それで、オマエはいつまでオレに顔を見せないつもりなのだよ」
「今は、ダメっス」

もっとぎゅうぎゅうにくっついて、離れないように。

「バカはオマエなのだよ、黄瀬」

もう一度指先にキスをされた。



終わり



 
     
 

2013/09/12