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黄緑 |
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「緑間っち、なんかちょうだいっス」 朝も早くから、おはようの挨拶よりも先に両手を差し出した黄瀬に緑間は冷ややかな視線を送る。 見慣れない生徒は、背筋を正して逃げていきそうな程の表情だったけれど、黄瀬には通用しない。 「なにかとは、なんなのだよ」 今日の朝練は自由参加だった。 テスト前のせいもあり、部室には、着替え始めていた緑間とやってきたばかりの黄瀬しかいなかった。 「おは朝見たっスよね?双子座!今日は最下位で、ラッキーアイテムは好きな人の持ち物って言ってたっスよ」 「おは朝の占いは、信じていないのではないのか?」 「信じてないっスけど、最下位なのはなんか気持ち悪いし、緑間っちの持ち物欲しいし」 「オマエはオレが好きなのか?」 大真面目に言い返されて、黄瀬はさすがに笑顔ではいられなかった。 「ちょっと!寝ぼけてるんスか?何度も言ってるじゃないっスか!」 「冗談だ」 そんな黄瀬の反応を確認してか、緑間は黄瀬から視線をはずし、脱いだシャツをきちんとたたむ。 「性格悪いっスよ」 「性格が良いと思ったことなどないのだよ」 「話を変えようったって、そうはいかないっスよ。緑間っちの持ち物、なんかちょうだいっス」 「……オマエは本当に」 再び黄瀬の方を向いた緑間の視線が緩やかに和んで、呆れたように溜息を吐くけれど、口元は小さな微笑に変わっていた。 その変化を間近で見られることが、増えた。 それは、黄瀬の特権であり、また、黄瀬の努力の賜物でもある。 「なんスか?」 嬉しさを隠しきれずに笑って見せれば、軽いデコピンの刑に合う。 いったーと叫んで額を押さえると、緑間はロッカーの中から手袋を取り出した。 「やるのだよ」 「え?」 「占いの結果が原因で怪我でもされたら、困るからな。持っていればいい」 黄瀬の手のひらにそっと手袋をのせて、着替えを終えた緑間は部室を出て行く。 ぽかんとその背中を見送ってしまったあとで、黄瀬はじわじわとその意味を理解して、身体が熱くなった。 (オレが好きなのは自分だって、やっと認めた…) 一ヶ月ほど前から、何度も繰り返して告白をしたけれど、どうにも伝わったような気がしていなかった。 自分の性格のせいもあるけれど、緑間は疑り深いというか用心深く、相手の気持ちをずっと観察しているようなところがあった。 恋愛関係に関しては、信じられないくらい鈍いと知っていたけれど、ここまで自分宛の好意を知らない人は初めてだった。 だから、好きだから付き合ってと言った自分の言葉をなかなか受け入れてはくれなかった。 緑間の気持ちは良くわからない。 それでも、側にいる居心地の好さは誰にも譲れなかった。 気を遣わなくていい人間がいることを初めて知ったのだ。 無意識に笑顔の仮面をかぶることに慣れていた自分に、笑わなくてもいいと言ったのは、緑間だった。 (責任とって、もらわないと…) 手袋を握り締めて、黄瀬は満面の笑みを浮かべながら、自分のロッカーを開けた。 終わり |
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2014/02/03 |
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