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火緑の日 |
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「あれ?緑間じゃねえ?」 テーブルの隣りに立って、確かめる必要のないことを言う。 顔を上げるのも面倒で、とりあえず、無視をした。 「一人?ここいーだろ?」 勝手に目の前のイスに座る。 トレーには山ほどのハンバーガーがのっていた。 相変わらず、火神の胃袋は謎だ。 「何の用だ」 読んでいた本から目を離さずに問う。 「用なんかねぇよ」 似て非なるもの、とはこのことを指すのだろう。 人の顔色を読まないのは、長所であり短所だ。 読みすぎるのも問題だけれど。 淡い水色の瞳を思い出して、溜息をひとつ吐く。 図々しさだけが似ているのかと思えば、それだけではないようだ。 自分にはないスピードで、ハンバーガーがどんどん減っていく。 燃費の悪いヤツだと改めて思う。 「お前って、きれいな目してるよな」 「何をバカなことを」 「ほんとだって、睫毛なげえし、ビー玉みたいにきらきらしてっし」 視線を向けるとにこにこと無邪気な笑顔と出会う。 知らない生き物のようで、落ち着かない。 好戦的なのはバスケがからんだときだけなのか。 「メガネとって見せろよ」 「断るのだよ」 「なんでだよ」 「減る」 「減らねえし」 「見世物ではないのだよ」 レンズ越しの世界はいつだって鮮明に映し出す。 表情も感情も。 情熱も闘志も。 ガラス一枚に守られている。 知らなければならないことを見逃さないように。 「そんなんじゃねえだろ」 あまりにも自然に。 あまりにも簡単に。 慣れた手付きでメガネを掴むから、反応が一瞬遅れた。 メガネをはずすことに慣れすぎている。 両手でするっとメガネをはずされて、視界は一気にぼんやりとゆがんだ。 「返せ」 「ちょっと、待てって」 睨んでも効果はないらしく、かわりに触れるほど近付いた顔に驚く。 「ほんとにきれーだよな」 「嬉しくないのだよ」 「褒めてんのに」 「いいから、メガネを返せ」 「わかったって」 そう言って、火神はごく自然に。 瞼に口唇を落として、離れた。 瞬きを数回繰り返す。 それから。 「オマエ・・・」 それ以上何も言えずにいたら、悪びれもなく笑う顔を殴りたくなった。 「キレイだったから、つい」 メガネを手渡されて、深呼吸をひとつ。 この場で怒鳴るわけにはいかない。 「キレイだからと言えば何でも許されると思うなよ」 席を立ったついでに手のひらで火神の頭をべしっと叩いた。 「なんで怒ってんのかわかんねえんだけど!」 「わからないことがわからないのだよ」 そう言い残して、店を出た。 (バカの相手をすると調子が狂う) 口唇の感触の残る瞼を指先で拭いて、歩き出した。 終わり |
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2012/10/06 |
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10月6日は火緑の日! |
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