図書館

 
     
 


「緑間っち〜」

語尾をのばして呼ぶ。
甘えたくて、かまって欲しくて、目の前の本を取り上げたくて。

「みーどーりーまーっちぃ〜」

図書館の静けさを壊さないように、ちゃんと小声で呼びかける。
隣り座る緑間は黙々と本に集中していて、反応は全くない。
昨夜電話をしたら調べないとわからない課題がある為、午前中は図書館へ行くと聞いた。
だから、待ち伏せをして一緒にいるのだ。
図書館の入り口で黄瀬を見つけた緑間は想定内だとでも言いたげに「暇なのか?」と呆れられた。

「緑間っちに会いたかったんスよー?」

そう答えたら返事はなかった。
相変わらず言葉は少ないし、表情も変わらない。

(そーゆーとこも好きなんだけど)

それでも、さびしいともつまらないとも思う。
一緒に中に入って、緑間が席に着いたのを確認して、黄瀬も適当に本を一冊選んで、その隣りに座った。
しばらくは、難しそうな本を真剣に読む横顔に見惚れていたけれど、瞬きひとつも意識が逸れず、邪魔をしたくなってくる。
土曜日の午前中の図書館は、人はまばらで、自分たちの座るテーブル席の周りは誰もいなかった。
静かで、程よく空調のきいた館内は思いのほか居心地が好かった。
緑間の集中力の高さは、そのシュートを打つ時に最大限発揮されるけれど、普段も練習中や試合観戦中、そして、勉強中にも遺憾なく発揮される。

「みどりまっち?」

本の上に手を出したい気持ちを抑えて、もう一度呼びかける。
真剣な顔も好きだけど、こっちを向いて欲しい。

「・・・うるさいのだよ。あと5分待て」

ようやく返事が来た。
それが嬉しくて、黄瀬はテーブルに突っ伏してにやける顔を隠した。
5分は長い。
1クォーターの半分だ。

(5分もあれば何回シュートできるっスかね)

脳内で試合状況を再現する。
ディフェンスをかわしてフリーになった瞬間を逃さずにモーションに入る。
ボールはそのままゴールに吸い込まれた。
それからは速さとパスワーク、ディフェンスを蹴散らすダンクシュート。
想像の中でなら、何度でも決められる。
もちろん、現実でも何度だって、決める。

「黄瀬、寝たのか?」
「寝てないっス」

がばっと起き上がったら、緑間が少し驚いたように目を見開いた。

「それで?何の用なのだよ?」
「なにって、こっち向いて欲しかったんスよ?」
「オマエは本にまで妬くのか?」
「え?違うっス。そんな事・・・」

慌てて否定したら、緑間に笑われる。

「隠せてないのだよ。バカめ」
「え?」
「視線が鬱陶しいから何か本でも読んでいろ」
「そんなに見てないっスよ?緑間っちの自意識過剰じゃないんスか?」

気付かれていた照れ隠しも含めて言い返したら、背筋が真っ直ぐに伸びるくらい冷ややかな視線で見下ろされた。
無言の迫力は半端ない。

「黄瀬?」
「よ、読むっス。なんか読んでるっス」

持ってきていた本を慌てて開く。
緑間の溜息が聞こえたのがおかしくて、笑った。
静かな場所で、隣りには緑間がいて。
それがうれしくて、安心できて。
目の前の活字が模様に見えてきた途端、黄瀬はそのまま意識を手放した。



「黄瀬、起きるのだよ」

肩を揺すられて、目を覚ます。
なんだかよい夢を見ていたような気がする。

「緑間っちぃ〜」

隣りに緑間がいる事にほっとした。
厳しい事ばかり言うし、つれないし、そっけないけれど、優しい事はわかっている。

「静かになったと思ったら、本当に寝ていたとはな」
「だって、緑間っちがいるし、静かだし、緑間っちがいるしで、なんか眠たくなったんス」
「何故原因がオレなのだよ」
「側にいると安心するんス」
「・・・・・・」
「なんで、無言っ?!」

緑間の視線が真っ直ぐ黄瀬の方を向いた。
何かを確認するかのように首を傾げる緑間に黄瀬の心臓が跳ねる。

(なんなんスか・・・)

こんな風に見詰め合う事は少なくて、だからこそ鼓動が逸るのだ。

「本の上で寝るから跡がついているのだよ」

黄瀬の頬に触れた緑間が珍しくおかしそうに笑ったので、反応が遅れた。
緑間の手が冷たい。

「ふ、不意打ちは卑怯っス」

頬が熱くなる。
笑顔も指先も。

「何の事だ?」
「どきどきしてんのはオレだけっスか?」

頬に伸びた緑間の手を掴んで、そのまま指先にキスをする。

「黄瀬っ」
「誰も見てないっスよ」

そのまま緑間の手を握った。

「オマエの手はあたたかいな」
「緑間っちが冷たすぎるんス」
「黄瀬が子供体温なだけなのだよ」
「子供じゃないっスよ?」

握った手を引き寄せたらハードカバーの本で目の前を遮られた。

「場所をよく考えるのだよ。バカめ」

ついでにべしっと額をその本で叩かれる。

「緑間っちのケチ」

唇を尖らせてぶーぶーと反論したら、さらにもうひとつ鉄拳が飛んできた。

「・・・ったぁ」
「図書館は本を読む場所なのだよ。それができないなら先に帰れ」
「いやっス。一緒にいるっス。我慢するっス」

ぴしっと背筋を伸ばした黄瀬は、開いていた本に視線を移した。

(図書館を出たらキスしたい・・・な)

集中力はほとんどない。
あくびをひとつしてページをめくった。


そんな様子を見ていた緑間が呆れたように笑った事を黄瀬は知らない。



終わり



 
     
 

2012/06/24

 
     
 

図書館デート(笑)
仲良しっぽい話が書いてみたくて。