| 戻 | ||
心を話す |
||
真っ直ぐに伸びた背中。 途切れない集中力。 その姿に見惚れるから、本当は見たくないのかもしれない。 放課後の体育館は静かすぎた。 「緑間っち」 後ろから抱き締める。 自分より少し背が高いから、そのままうなじに口唇が触れる。 少し、びくりと肩が震えるから、腰をぎゅっと固定して、首筋を強く吸う。 何度か繰り返すと色白い肌が少し紅く染まる。 甘い飴玉みたいな色をそっと舐めると、震えた手で腰に回した腕をはずそうとしてくる。 (ダメ。逃がさない) 表情が見られないのはつまらないけれど、シルシを付けたかったから仕方ない。 「黄瀬」 低い声が名前を呼ぶ。 嬉しくて、肩口に頭をのせた。 (逃がさない) 薄いTシャツの越しに感じる体温はあたたかすぎる。 「いいかげんに離れるのだよ」 腰に回した手をぽんぽんと優しく叩かれた。 「嫌っス」 こんな風に、緑間を独り占めにできる事は少ない。 いつも一人で黙々とシュートを打ち続ける。 近寄り難い空気がそこに流れ、誰しも遠くから見守るばかりだ。 「どうしたのだよ」 優しい声音が珍しい。 顔が見えていないせいなのか、いつもと同じ事を言われているだけだというのに。 「好き」 その優しさを全部自分のものにしたい。 「緑間っちが好きっス」 抱き締める腕に力を込める。 このあたたかさも。 この白い肌も。 この優しい声も。 「逃げないで」 不安と疑心。 自分の体温も想いも伝わればいいのに。 「だからオマエはバカなのだよ」 溜息と一緒に緑間の身体から力が抜ける。 「嫌いな人間に、オレが許すと思っているのか?」 抱きしめられる事もキスされる事も。 言葉少なに語られた本音は、攻撃力抜群だった。 「み、緑間っち」 抱かれた腕をほどいて、緑間が振り返る。 顔が熱いけれど、もう隠せない。 「告白するなら、ちゃんと目を見て言え」 眼鏡をはずし、耳まで赤くなった黄瀬に緑間が口唇を重ねた。 「ずるいっスよ。かっこよすぎ・・・」 「それはオマエの方なのだよ」 眼鏡を掛け直した緑間は足元のボールを拾うとシュートを放った。 うなじに残る、紅い痕。 (思ったより目立つ・・・) 小さな所有印。 「緑間っちの返事を聞いてないっスよ」 ゴール下に駆け寄って、落ちてくるボールを掴んでシュートを決める。 「言ったはずだ。嫌いじゃないのだよ」 「それ、返事になってないっス」 緑間に向かってボールをパスした。 真っ直ぐ届くボールのように、気持ちも届けばいい。 「好きか嫌いかの二択ならば、好きなのだろうが、それは黄瀬の言っている好きと異なっているのはわかっているのだよ。だから、今は嫌いじゃないとしか答えられない」 受け取ったボールでもう一度シュートを放つ。 美しい弧を描き、ボールはゴールに吸い込まれていく。 「じゃあそれで我慢するっス」 ゴールから落ちてきたボールを拾って、黄瀬は緑間の側にあった籠に放り込む。 「すぐに黄瀬が好きなのだよって言わせるっスよ」 「真似をするな」 「真似するのが特技っスから」 「バカめ」 呆れたように言う緑間を今度は正面から抱き締めてその頬にキスをする。 どこまで気付いてんの? どこまで知ってんの? (もう逃げられない事に気付いてる?) 鮮やかに笑って見せると、緑間からは深い深い溜息だけが返ってきた。 終わり |
||
2012/06/27 |
||
黄瀬が緑間に告白する話。 |
||
| 戻 | ||