shortage

 
     
 


「いつもそう言って、オレのことは見てくれないんスよね」
「そんな事は言ってないのだよ」

どうしてこんな言い合いになったのか、きっかけは思い出せないけれど、小さな口論から始まった。

「じゃあ、オレのこと、好き?」
「・・・・・・、話が違う」
「もー、じゃあ、どうしたらいいんスか」

抱きしめてもキスしても手をつないでも。
足りない。
確かめたいのは、不安だからだ。
わかっているけれど、言葉が欲しいときもある。

「何をして欲しいと言うのだよ」

妥協点を探そうとしているのか、緑間が小さく息を吐いた。
レンズ越しに見える目はいつも真っ直ぐできれいで、怒ったり困ったりはするけれど濁ったりはしない。

「好きって言って欲しいっス」
「好き」

あっさりと言う緑間の表情はいつもと同じで、本当なのか冗談なのかそれすらもわからない。

「なんか、違う・・・」

黄瀬ががっくりと肩を落として項垂れる。

「なんなのだよ」
「緑間っちはオレのこと好きっスか?」

不安という不確かなものを抱えて、もう一度緑間を見上げる。
長い睫毛が瞬きのたびに揺れて、やっぱりきれいだと思った。

「好きなのだよ」

今度は、欲しかった答えが返ってくる。
少し照れたように目を逸らす緑間の反応が嬉しくて、思わずその場で抱き締めた。

「ほんとに?」

素直に喜べない自分が時々面倒だと自分で思った時には、いつも手遅れだった。
不安がそのまま口を突いて出て行く。

「何を疑っている」
「だって、緑間っちが、オレのこと好きって、信じられないっス」
「なんでだ?」
「なんでって、だって、緑間っちっスよ?」
「オマエ、自分で何を言ってるかわからなくなっているだろう?」
「う、・・・はい」
「バカめ」

握った拳で少し強めに頭のてっぺんを叩かれて、黄瀬は頭を押さえてその場にしゃがみこんだ。
本当に容赦が無い。

「・・・いってぇ」
「疑われるのは心外だが、それくらいの距離があった方がいいのかもしれないな」
「え?やだ。緑間っちはオレのこと好きなままでいて」

緑間の制服のズボンをつまんで二度ほど引っ張ると冷ややかな視線で見下ろされてしまう。

「オレは緑間っちのこと、好きだから」

立ち上がってもう一度緑間を抱き締める。

「疑い深くなっちゃったんスよ。嫌なことばっかり考えてしまうんス・・・」
「だから、バカだというのだよ。オマエが性格の悪い男だと知っている。オレはオレの気持ちに嘘はつかない。好きなだけ疑えばいい」
「緑間っち、マジでかっこよすぎっス」
「・・・黄瀬」

静かに名前を呼ばれて顔を上げるとそのまま口唇が重なった。
触れるだけの優しいキスは緑間そのものだ。

「好き」

今度は黄瀬から口付けて、抱き寄せた。
何度確かめたとしても。
何度も繰り返す。

(好きだけじゃ足りない)

満たされない。



終わり



 
     
 

2012/07/18

 
     
 

好きを繰り返しても足りないのは満たされていないから。
何が不安で、何が信じられないのか、よくわかっていない。
そんな黄瀬を丸ごと受け止めてしまう緑間。
私の書く黄緑の根っこのようなものかもしれない。
shortage=不足。