己を知り相手を知る

 
     
 


以前より練習はするようになったと言った。
一度見たプレーを一瞬で自分のものにする。
そんなふざけた芸当を持っているが為に、練習や努力といった行いを好んではいなかった。
中学時代の黄瀬はそんな人間だった。
緑間はテーピングをはずし、シュートを放った。
バスケットボールは高く弧を描き、ゴールへと吸い込まれるように入っていく。
意識せずとも全身がそのフォームを覚えるように。
何度も何度も同じ事を繰り返した。
それが『キセキの世代』という称号を与えられたが為に課せられた、鎖であり、自由だ。
勝つ事が当然という世界に身を置き、それは中学時代となんら変わりない。
意識するのであれば、自由と己の為の落ちないシュートである。
2点よりも3点。
遠ければ遠いほど放ったボールは美しい弧を描く。
練習する姿、努力する姿は、見られない方がいい。
結果が全てである。
過程は意味を成さない。
試合での正確無比なプレーこそが、勝利を導くのだから。
体育館でもなく、公共のコートでもない。
小さな公園の片隅に設置されている古びたバスケットゴールが、緑間の練習場のひとつである。
誰にも知られずに、ただひたすらゴールへシュートを放つ。
寸分のずれも許さないフォームとタッチ。
ボールは何度も何度もゴールへと吸い込まれていく。
落ちる事は無い。
最善の努力。

(人事を尽くして、天命を待つ)

運命に選ばれるのは、己の努力。
そして、ラッキーアイテム。

(負ける事は許されない)

遠くから、そして、どの場所からもシュートはゴールに入らなければならない。

(簡単に真似をされては困るのだよ)

練習を繰り返したところで、ロングシュート向きのプレイヤーではないのだ。
模倣される事はない。
3ヶ月、会わなかっただけだというのに。
へらへら笑ってばかりいた黄瀬は、少し精悍な顔つきになったようだった。
緑間は、ふと口元を緩めた。

(いつか対峙する事があるとすれば、全力で叩きのめしてやろう)

遠く離れたゴールへ向かって、ボールを放つ。
青空の下、ボールは音も無く吸い込まれた。



終わり



 
     
 

2012/06/03

 
     
 

緑間から見た黄瀬。
まだ恋愛要素はなくて友情というかライバルというか。