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誘い寄せる |
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どうして?とその目で訴えた。 答えなど、簡単なものだった。 「だって、いつも無表情でつまんないんスよ」 そう言って笑う黄瀬は、どんな姿よりも妖艶で美しかった。 だから、緑間は見惚れたのだ。 自身が、黄瀬に組み敷かれているのに、だ。 「おかしくもないのに笑えと言われても笑えないのだよ」 息の触れる距離まで近付いた顔から目も逸らさずに、緑間は答える。 正確に言えば、目を離せなかっただけなのだが、それは重要ではない。 「驚いたり、泣いたり、アンタのそーゆー顔が見たい」 「残念ながら、喜怒哀楽を表現するのは苦手だ」 「じゃあ、ヤラシイ顔は?」 黄瀬が緑間の耳朶に噛み付き、そのまま形をなぞるように舌先で舐めると、ぞくぞくとした感覚が背骨を通って下半身にまで伝わる。 びくり、と肩を揺らせば、黄瀬が嬉しそうに笑う。 「感じてんの?」 緑間の返答を待たずに、首筋へと口唇を落とし、緩めたネクタイの下のボタンをはずして、露になった鎖骨にも強く吸い付いた。 白い肌に、赤色の点が残り、緑間から甘い声が零れる。 「今の、初めて聞いたっス。ヤラシイ声」 「・・・まだ、続けるのか?」 「だめ?」 「しかたない、な」 緑間は自分を押さえつけていた手を振り解き、上体を起こしながら黄瀬のネクタイを引き寄せた。 不意を突かれたせいか、操られるように顔を近づけた黄瀬に緑間は口唇を重ねた。 触れた後、黄瀬の乾いた口唇を湿らすようにそっと舐めとり、緑間は黄瀬を突き放した。 「自分に好意を持たない相手が珍しいのかもしれないが、興味本意で近付くのはやめるのだよ。不愉快だ」 襟元を正し、手慣れた様にネクタイをきちんと締めると、緑間は床に座り込んだままの黄瀬を置いて、教室を出て行く。 (まったく・・・) 廊下で一人、溜息をひとつ。 これで、大人しくなる様なら苦労はしない。 胸の奥がほんの少しだけざわめくのを感じながら、緑間は何もなかったかのように背筋を伸ばして歩き出した。 終わり |
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2012/10/01 |
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帝光中学時代。2年生。 |
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