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雪の日 |
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キスをした。 口唇に触れるだけのキス。 *** 雪がひらひらと降ってきた。 この時期に珍しいこともあるものだと、ズボンのポケットに手を突っ込んだまま、天を仰いだ。 マフラーひとつでは、寒さをしのぐのは厳しいかもしれない。 明日は制服の下に薄いセーターでも着た方が良さそうだ。 簡単に風邪をひくような、そんな軟弱な鍛え方はしていないけれど、予防することが大切なのだと口うるさく言われ続けた。 それはきっと今でもかわらない。 口調も声もセリフも全部同じなのだろう。 脳内で映像と音声が再生されて、一人だというのに笑ってしまった。 体調管理も練習のうちだと思えば、それは少しくらい大仰でもかまわない。 風邪をひかない事が重要なのだから。 雪はひらひらと降り続いた。 積もるほどの寒さではないけれど、目の前を白く小さな欠片が埋め尽くす。 はしゃぐほどではないけれど、ほんの少しだけ心が浮き足立つ。 寒いのは苦手。 でも雪は嫌いじゃない。 『緑間っち』 雪が道路を白く染めた帰り道。 マフラーを引っ張り、よろめいた緑間の身体を抱き止めた黄瀬は、そのままキスをした。 触れるだけのキス。 覚えているのは、寒さに震えていた口唇と白い雪。 好きだよ。 好き好き。 そのまま、ぎゅうっと抱き締めたら、温かくて離れたくなくなった。 時間が止まればいいと思った。 『大好きっス』 他の言葉が見つからなくて。 ただただ、同じ言葉を繰り返した。 緑間は黄瀬を黙って抱き返してくれたけれど、何も言わなかった。 好きなら好きって言って。 照れないではっきり言って。 聞きたい聞きたい。 駄々をこねる子供みたいに。 欲しい欲しいと繰り返した。 降りしきる雪が、頭に肩に腕に積もる。 お互いが雪にまみれた時、同時にくしゃみをしたから、顔を見合わせて笑った。 止まっていた時間が動き始めた。 『このままでは風邪をひいてしまうのだよ。帰ろう』 緑間がそう言うから、黄瀬が少し寂しく思った時、冷たい指先が手のひらに触れた。 ぎゅっと包むように握られた手は、じわじわと温かさを取り戻していく。 この指先に好きが詰まってる。 一番大事にしている指先に宿る想いが嬉しい。 じゃあ、しかたないな。 しかたない。 帰りたくないけど、帰らなきゃ。 握られた手を握り返して、一緒に歩き出した。 白い地面に二人分の足跡が並ぶ。 好きだよ。 大好き。 お互いが同じ気持ちだとわかったばかりの冬。 キスしか知らない淡い恋の始まり。 *** 雪が降ると思い出す。 冷たい口唇の感触と震えた指先。 キスをしたのはその時が初めてだったわけじゃないけれど。 雪が降ると思い出すから。 キスがしたくなる。 終わり |
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2012/10/24 |
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らぶらぶでかわいい黄緑を書きたくなって、 |
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