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なんでもない話 |
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何もしないまま側にいるだけで、幸せに思えるなんて、まだまだ難しすぎて。 一緒にいることができるなら、こっちを見て欲しいって思うし、話して欲しいって思うし、触れたいって思う。 それって、わがまま? *** 久しぶりに二人きりで会えた日曜日の夕方。 緑間を誘って、自室で過ごす事、2時間。 黄瀬が話す内容に相槌を打ちながら、緑間は部屋に置いてあったバスケットボールの情報誌をぱらぱらと読み続けていた。 グラスに入れた烏龍茶は、3杯目。 2Lのペットボトルの中身は残り少ない。 「好きって言ったっスよね?」 「ああ」 「一緒にいてもいいって言ったっスよね?」 「ああ」 「じゃあ、なんで、話してくんないんスか?」 黄瀬はクッションを抱えて、緑間の隣りに移動する。 「・・・なにを、話して欲しいのだよ」 顔を向けた緑間が小さく首を傾げた。 確かにどんな事が聞きたいのかは黄瀬にもわからない。 わからないけれど、自分だけが話し続けている状況を変えたかった。 「・・・なんでもいいんスけど。いっつもオレばっかりしゃべってて、緑間っちは聞いててくれるけど、しゃべってくんないから・・・、たまにはオレも聞いてみたいんスよ」 「話すことは特にないが、そんなに言うなら、オマエの嫌いなところを話そうか」 妙に真剣な面持ちでそう切り出すから、慌てたのは黄瀬の方だ。 緑間の事だ。 冗談など一切挟まず、クソ真面目に嫌いなところを語るに違いない。 しかも、その数はきっとひとつ、ふたつに限らないだろう。 そんな苦行に耐えられる程、黄瀬の精神力は強くなかった。 「ちょ、ちょっと待って。なんで、嫌いなところなんスか。せめて好きなところにして欲しいっス」 びしっと片手の手のひらを緑間に向けて制止する。 「・・・・・・好きなところなど、顔だけなのだよ。話が終わってしまうがいいのか?」 さらに真剣な表情で見詰める緑間に嘘も冗談もない。 「え?マジで?」 さすがにそこまでは予測も予想もしていなかっただけに、黄瀬は少なからずショックを受ける。 (顔だけって、ほんとに顔だけ・・・?) 脳内で反芻したところで状況が打開されもせず、微妙な沈黙が二人の間に流れた。 その空気に気付いたのかそうでないのか、緑間は妥協するかのように話し出した。 「・・・そうだな、顔だけでもパーツがいくつかあるから、パーツごとに好きなところを話せば、一言で終わらずに済むだろう。黄瀬の顔の中でも特に好きなのは、その目なのだよ。負けん気の強さが常に宿り、きらきらと光り輝いているからこそ惹かれたのだと、思っている。それは高校に入ってからさらに輝きが増して、眩しいくらいなのだよ。次に・・・」 「ちょ、ちょっと待って」 再び手のひらを緑間に向けて、制止する。 緑間からの思いがけない話に黄瀬は耳まで熱くなっていた。 きっと自分の顔が赤く火照っているのが、緑間にも見えているに違いない。 「なんなのだよ」 「予告もなくデレるのやめてくんないっスか?心臓がもたないっス」 「オマエが好きなところを言えと言ったのだろう?」 「そうなんスけど、それは間違ってないんスけど・・・」 「なんなのだよ」 「それはこっちのセリフっス」 心臓が早鐘のように鳴り響くのを抑えながら、緑間に言い返す。 確かに話して欲しいと言い出したのは自分だ。 緑間のことがもっと知りたいと言ったのも自分だ。 だからと言って、緑間自身の事ではなく、まさか自分の事を語りだすとは、黄瀬には思いもよらなかったのだ。 普段、好きも嫌いも言わず、口を開けばバカだのダメだの厳しい言葉ばかりの緑間からいきなり好きなところを語られ、しかも今まで聞いた事のないセリフを並べられては、嬉しいを通り越して照れもするし恥ずかしくもなる。 「・・・・・・」 勢いに任せて言い返したら、緑間はわけがわからないと言った風に眉根を寄せた。 「オレの好きなところ、本当に顔だけなんスか?」 「不満か?」 「自分の顔が他人よりレベル高いっていうのは認めるっスけど、外見なんて、自分で変えられるものじゃないから・・・」 「容姿に恵まれているだけでは、万人に好かれはしないのだよ。性格や精神が健全で美しければ、その分外見に反映され、人の好意を受けやすくなる。オマエには充分その要素が備わっていると思うが?」 真剣に答えられてしまい、黄瀬は言葉を失う。 (オレの性格とか精神が美しいって思ってんの?) にわかに信じられなくて、黄瀬は笑った。 「そしたら、オレは真っ黒っスよ」 妬くし、嫉むし、必要であれば悪巧みだってする。 いつだって、自分の思うように行かない事を恨みもする。 美しいとは無縁だ。 むしろ、美しいのは、いつだって真っ直ぐで頑固な緑間の方だ。 そんな黄瀬を見て、緑間がおかしそうに笑う。 「そこ、笑うところっスか?」 「オマエがもし黒いというのであれば、オレは騙されているという事になるのだよ」 「黒いから、うまくだましてるんスよ」 緑間の手を取って、ぎゅっと握る。 テーピングの巻かれた指先に体温は感じられない。 「緑間っちは?」 指を絡めて、手の甲に唇を落とす。 「どうだろうな。自分のことは自分でわからないのだよ」 振り解く事もせずに、緑間は黄瀬の様子をただ見詰めていた。 「オレが黒くって、緑間っちが白ければ、二人一緒にいればちょうど良いと思うんスけど?」 「オマエが思ってるほど、オレは白くはないぞ」 「それじゃ、なおさらバランスが良いっスね」 「そうだな」 納得したように頷いた緑間に黄瀬は口付けをする。 側にいれば、話したいし、見つめたいし、触れたい。 話す内容なんて、なんでもいいけど。 (嫌いなところは一生聞かなくていいっス) きっと、それも、わがまま。 終わり |
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2012/11/04 |
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緑間くんは常に無意識にデレる。 |
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