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特別な毎日 |
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自主練後、黄瀬が部室に戻ると緑間が一人残っていた。 すでに制服に着替え終えているのをみると、黄瀬のことを待っていたようだ。 部室の鍵を預かっているのだろう。 最近は待つこともせずに体育館にいる黄瀬に鍵を預けることも増えていたのだけれど、どうやら今日は違ったらしい。 「緑間っちは、飽きることとかないんスか?」 練習メニューの確認をしているらしい緑間にそっと近付いた。 我ながら、とても間抜けた質問をしたと、黄瀬は後になって思ったけれど、その時には気付いてもいなかった。 何をやっても見ればできた。 何をやっても最終的にはそこにいた誰よりも上手になって、誰も敵わなくなって、結局、一人に戻る。 つまらない。 つまらないと思うのは、そのことに飽きるからだ。 バスケ部に入ってから、飽きるどころか一人にすらなれない。 立ちはだかる目の前のレギュラースタメンの強さに圧倒される。 毎日の厳しい練習も終わった後の自主練も苦しいけれど、その苦しさを忘れてしまうくらい、楽しい。 そう、楽しい。 「オマエは飽きるという意味を知っているのか?」 顔を上げた緑間と目が合う。 「え?」 「飽きるというのは、同じ物事が何度も続いて嫌になり、嫌になって続けたくなくなる事だ。嫌にさえならなければ、飽きる事もないのだよ」 「同じこと続けてて嫌になることがないんスか?」 「同じ事を続けている覚えがないな」 「練習とか」 「毎日違うのだよ。同じだと思うから同じに感じる。違うと思えば違う」 「そうやって、自分に言い聞かせてるんスか?」 「言い聞かす必要もない。実際違うのだから」 「それは練習だけっスか?」 毎日顔を合わせてても、一緒に練習をしてても、違うと言うのだろうか。 同じ日などありえないけれど。 「・・・何を言わせたい」 「だって、せっかく二人きりなのに」 「バカか」 「もー、すぐそー言うけど、緑間っちがオレのこと好きなの知ってるんスからね」 「それは、オマエも同じだろう?」 否定をされない。 それは、以前よりずっと近付いた証。 「そうなんスけど!なんでなんにも変わんないんスか!もーちょっと照れるとか動揺するとかそーゆーの」 仕掛けた自分の顔が熱いだなんて、どこか負けた気分だ。 「見たいのか?」 「見たいっス」 真剣な顔で真っ直ぐに緑間を見詰め返す。 「だからバカなのだよ」 笑う。 ふ、と。 自然に口の端を緩めて、おかしそうに、笑う。 そんな風に笑う緑間をこんなに近くで見たのは初めてかもしれないと、黄瀬はそのやわらかな笑みに見惚れた。 花が、道端の小さな花が、そっと開くように、そんな風に緑間は笑うのだ。 「緑間っち」 「なんだ」 「オレ、バカでよかったっス」 そうでなければ、こんな風に笑う緑間を見ることができなかったかもしれない。 緑間はほんの少し眉根を寄せて、黄瀬の顔を覗きこんだ。 急に顔が近付いて、黄瀬は反射的に数センチ後ろに下がる。 「な、なんスか?」 「・・・なんでもないのだよ」 緑間が小さく溜息を吐いて、バッグを肩に掛けた。 「帰るぞ」 「え?ちょっと待って」 黄瀬は慌ててTシャツを脱いで制服に着替える。 緑間から顔を近付けてくるのはめったにないチャンスだったことを後悔しながら、シャツの袖に腕を通す。 (あのままキスしちゃえばよかった) 間近で見ても歪むことのない整った顔は、モデルの現場でもめったに見ることはない。 (キレイなのに) それを覆い隠す程の真面目さと変人っぽさが、もったいないと思いつつ、そのおかげで一人占めできるのだから、感謝もする。 「黄瀬」 「はいっス」 呼ばれて反射的に背筋を伸ばす。 そうだ、早く着替えなければならない。 ズボンをはいて、ベルトを締めて、カーディガンを着て。 ネクタイは脱いだTシャツと一緒にバッグに押し込んだ。 「お待たせっス」 最短記録を更新したのではないかと思うくらいのスピードで帰り支度を済ませた黄瀬に対して緑間は一目見るなり、その額をぺしっと叩いた。 「ってぇ」 「ボタン掛け違えてるのだよ」 「ええっ?」 言われて自分の胸元を見ると、一段ずつずれて留められたボタンのせいで、シャツがゆがんでいる。 「慌てすぎだ」 「だって、緑間っちが待ってるから早くしなきゃって・・・」 「オマエが着替える時間くらい、ちゃんと待っててやるのだよ」 「緑間っちが優しい・・・」 「鍵、かけるぞ」 呆れた顔をしつつもほんの少しだけ頬が赤く見えたのは、気のせい? こんな時、どうしようもなくぎゅうっと抱き締めたくなるのだけれど、そんな隙さえ与えてくれない緑間がずるいと思う。 「ちょ、ちょっと待って・・・」 シャツのボタンを半分はずしたまま、黄瀬はバッグを持って部室を飛び出した。 廊下の明かりはまばらで、窓の外はもう真っ暗だった。 ドアに鍵をかけた緑間が先に歩き出す。 その後を追いかけて黄瀬が隣りに並ぶ。 「緑間っち」 甘えるように呼んでみる。 二人きりだと緑間は優しいことを知っている。 「なんなのだよ」 「甘えてるんスけど?」 「鬱陶しい」 「優しくしてくれたっていいじゃないっスか」 「する意味がない」 「ひっどぉ・・・」 くだらないことを言い合う毎日だって同じじゃない。 飽きることなんてひとつもない。 そんな風に思えるようになってよかったと、いつか思う日がくるのかもしれない。 いまは、まだ、気付いていないけれど。 終わり |
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2012/12/11 |
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帝光中学時代。2年生。 |
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