会いたいに理由はない

 
     
 


「会いたかったんスよ。そう言えば信じてくれるっスか?」


帰宅途中で緑間は黄瀬に会った。
今日に限って言えば、高尾が家の用事があると部活を休んだ為に、久しぶりに歩いていたのだ。
さすがにそこまでを予測していたとは思えなかったが、通り道に居たのは間違いない。

「理解できないのだよ。何の用があっての待ち伏せか?」
「緑間っちに会いたかったんス。ただそれだけっス」

目にかかりそうなほどの前髪をかきあげて、それから、照れくさそうに笑った。

「時間の無駄なのだよ。ここにいる間他に出来る事がいくつもあるだろう」

黄瀬の通う海常高校とは地区が異なる。
部活後に簡単にやって来れる距離ではないのだ。

「無駄じゃねぇっスよ。少なくともオレにとっては」
「わからないのだよ」
「わからなくていいっスよ。オレがわかってる」

黄瀬はいつものようにへらへらと笑って、先に歩き出した。
向かう方向が同じだった為、緑間は不本意ながらもその5歩ほど後ろを歩く。
中学を卒業してから、音信不通だった。
同じチームでバスケットボールをしていたが、チームではなかった。
一人一人独立したポジションで勝ち抜いてきたのだ。
馴れ合う必要はなかった。
高校がばらばらに分かれたのも必然である。
連絡を取り合うことも無いままだったが、情報は自然と耳に入ってくる。
黄瀬と会ったのも黒子の入った誠凛高校が練習試合をすると聞いたからだ。
誠凛高校とは地区大会で戦う可能性があった。
海常高校へ行った理由を探せば単純だったが、緑間は黄瀬の意図をはかりかねていた。
黄瀬の言う『会いたかった』という気持ちが理解できない。
会う必要がないと思っていたせいでもある。

「緑間っち!」

1分も経たないうちに黄瀬が立ち止まり、振り返った。
急に大きな声で呼ばれ、驚いたのは緑間だ。

「な、なんなのだよ。往来で大きな声を出すんじゃない」
「よかったぁ。いないかと思ったんス」

バシバシと両肩を叩く黄瀬の手を振り払って、今度は緑間が先に歩き出した。

「ちょ、ちょっと待って・・・」

追いかけてきた黄瀬が、緑間の隣りに並ぶ。

「なんなのだよ、オマエは」
「会おうと思えばいつでも会えたのに会おうとしなかったことを反省したんス」

中学時代は飽きるほど見ていたはずの黄瀬の笑顔は、まるで初めて見たような気がした。

(こんな顔をしていたのだろうか)

緑間は眼鏡を指先で持ち上げ、改めて隣りで笑う黄瀬を見た。

「な、なんスか?」
「待ち伏せなどしなくともメールひとつで無駄が省けるのだよ」
「え?え?待ち合わせしてくれるんスか?」
「オレに時間があればの話なのだよ」
「わかったっス。今度からメールするっス。メアド変わってないっスよね?」

黄瀬の声のトーンが明らかに高くなった。
驚いて、それから、喜んでいる。
緑間は小さく溜息を吐いて、子供のようにはしゃぐ黄瀬を見た。

(判断を誤ったか・・・?)

会う必要は無いけれど、会わない理由も無い。
緑間は歩調を少し速め、黄瀬との距離を離そうとしたけれど、黄瀬が気付くたびに駆け足で寄って来ては隣りに並ぶ。
最寄り駅の近くで、黄瀬と別れるまでそれは繰り返された。



終わり



 
     
 

2012/06/04

 
     
 

黄→緑の緑間視点。
黄瀬がちょっと本気になってきた感じ。