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会いたい |
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待ち合わせた公園のベンチに座って、空を見上げる。 ビルとビルの間にあるのは、澄んだ青色。 雲はないけれど、一筋の白い線が途中まで引かれている。 寒くも暑くもない日。 制服だけで過ごせる気温は、風が吹いても心地好い。 足元にピンク色のボールが転がってきた。 少し遅れて赤いスカートの女の子が駆け寄ってくる。 「はい」 ボールを拾って渡してやれば、「ありがとう」と言って、笑った。 つられて笑う。 子供の笑顔の強さはなんなんだろう? 待ち人は、まだ来ない。 いや、もう、来てた。 「守備範囲が広いな」 「まさか」 「笑うから」 「あんな小さい子に嫉妬してるんスか?」 振り返るとベンチの後ろに立つ、学ラン姿の緑間がいた。 「まさか」 そこまで心は狭くないはずなのだよ、と、無表情で付け加えるから、つられて笑う。 「久しぶりっスね」 「そうだな」 緑間が缶コーヒーを差し出してきたので、それを受け取る。 隣りに並んで座る緑間の手にはちゃんとおしるこの缶がある。 「会いたかったっスよ」 少し、甘えるようにその肩に頭をのせて、遠くで響く甲高い子供の笑い声に耳を澄ます。 さっきの女の子かなと思えば、少し微笑ましい。 メールもしてる。 電話もしてる。 たまにこうして会える。 これ以上、何を望むというのか。 「オレ、いっつも会いたいって言っちゃうんスけど。緑間っちは会いたいって思ったりするんスか?」 視線が前から横へ移動するのが、気配でわかる。 なるべく、わがままを言わないように。 なるべく、重くならないように。 そうして、軽く装っているけれど、本当は違うから、時々苦しい。 どこまでが許されて、どこからが許されないのか、よくわからない。 「できないことは、望まないようにしているのだよ」 ぱきんっと、缶の蓋を開ける音がする。 「諦めてるんスか?」 「今は」 あっさりと答える人に驚いて顔を上げれば、涼しい顔でおしるこを飲んでいるから、どこまで本気なのかと疑いたくなってしまう。 (嘘と冗談は言わない・・・) 全部、本当なのだと、信じるには、まだ、少し怖い。 それでも、緑間の言うできないことは、会いたいということで、今は我慢しているけれど、この先は、一緒にいたいということだというのは、なんとなくわかる。 都合よく解釈してるけれど、きっと間違いじゃない。 「緑間っち」 嬉しさを隠せない緩んだ顔で名前を呼べば、飽きれたような視線を向けられた。 頬を両手で挟んで、そのまま口付ければ、おしるこの甘さが伝わってくる。 深く飲み込もうとすれば、べしっと頭を叩かれた。 「場所を、考えろ。バカモノ」 そういえば、ここは公園だった。 ぐるりと見渡しても人の姿はどこにもないけど、あまりにもオープンな場所はやっぱりダメか。 「うれしかったんスよ」 「喜ばせたつもりはないのだよ」 「緑間っちの遠回しな言い方、だいぶわかるようになったんスよ」 「だから?」 「会いたいって、もっと言うことにするっス」 にこにこと笑ったら、勝手にしろと顔を逸らされた。 子供みたいにつられて笑っては貰えなかったのは残念だったけれど、横を向いた緑間の耳がほんのり赤かったから、それでよかった。 会って、何をするわけでもないのに、会いたいって思う特別な気持ちが同じくらいあるなら、いつだって、会えるのに。 終わり |
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2013/04/14 |
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会いたいと言える黄瀬くん。 |
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