百合の罠

 
     
 


甘ったるい花の香りが部屋中に充満している。
これは、百合だろうか。
息がつまりそうな程の甘く重い香りに目眩がする。

「起きたんスか?」

聞き慣れた声。
目を開ければ、鮮やかな黄色が目に入る。

「動かなくていいんスよ」

笑う唇がやけに赤く浮かんで見えて、顔の印象がぼやけてしまう。
ここはどこだろうと思う前に、どうして自分はここにいるのだろうと考える。
ふかふかなベッドの上に横たわっていることは背中の感触と触れたシーツの冷たさでわかるのだけれど、それ以外のことが全く分からない。
手首や足首、首が繋がれている感覚はないというのに、起き上がれない。
百合の、甘い甘い香りが急に強くなったように思う。
身体が重い。
自分の身体ではないような気がして、指先をそっと動かした。

「動かなくていいって、言ったっスよね」

指ごと手を握られ、そのまま唇が重なる。
甘い香りに惑わされてか、口内に侵入してくる舌まで甘く感じた。
ここは、どこで、こいつは、だれで、自分はなんなのか。
絡み合う舌と混ざり合う唾液にくらくらと酔いながら、目を閉じれば、すぐに暗闇に包まれる。
きらきらと輝く鮮やかな黄色は、きっと、外のものなのかもしれない。
耳元で囁く声に捕らわれて、逃げられない。

「好き」

指先に伝わる熱に浮かされる。

「好き」

甘い甘い花の香りが、意識を惑わす。
百合から発せられる成分にアルカロイドがあったことを思い出すけれど、目を開けることさえできなかった。
アルカロイドには心筋を弱める作用があるという。
そんなことをおぼろげな意識の中で思い出したところで、すでに手遅れかもしれなかった。

「・・・緑間っちが好き」

呼ばれた名前に頷いて、そのまま、眠りにおちていく。



終わり



 
     
 

2013/05/17

 
     
 

※ちょっと病んでるっぽい黄瀬くんが書いてみたかったのと、
百合の花に含まれる成分が死に至らしめるというのを聞いて。
なんて、美しい死に方なのだろうとちょっと思ったのです。