道端に咲く花

 
     
 


道端で花が咲きます。

『どうしますか?』

問いかけられます。
誰とではなく、何かに。

「そのままにしておくのだよ」

触らぬ方が障りない。
理由はちゃんとある。

「そうして、見て見ぬふりをするんスね」

違う。
毎日、その花を見る。見ている。

「だけど、何もしない」

それが、悪い事かと問えばいいのか?
悪い事ではない。
良い事かはわからない。

「例えばの、話をしよう」

道端の花が、道路の真ん中であったならば、植え替えたかもしれない。
道端の花が、しおれていれば、水を与えたかもしれない。

けれど、この道端の花は、元気にきれいな花を咲かせている。
自らの力で、生きている。

「助けは必要ないように見えるのだよ」

余計な手出しをしたことで、それが原因で枯れたりしたら、どうする?
その方が、悪い事ではないのだろうか。

「じゃあ、緑間っちはオレが道端で倒れていたらどうするっスか?」
「オマエなら、助けてもいい」
「……よかった」

清潔なシーツの上に寝かせて、水を与えて、栄養を与えて、そうして、自らの力で起き上がれるようになれば、見送ることができる。
自ら生きることができれば、他人の手は必要ないだろう。

「見送っちゃうんスか?」
「元気になったのだろう?」

自分のことが自分でできるようになれば、助けはいらないのではないか?
自分で歩けばいい。

「オレは緑間っちと一緒にいたいんスけど?」
「……一緒にいたければ、いればいいのだよ」
「いてもいいんスか?」
「かまわない」

足元の花が、風に吹かれて揺れる。

「じゃあ、一緒にいるっスよ」

黄瀬が腕にしがみつくようにくっついてくるから、ほんの少しだけバランスを崩した。

「バカ、花を踏んでしまう」
「あ、ごめん」

けれど、知っていることもある。
黄瀬は、この道端の花を踏めるのだ。
いつでも。

だから、助けを求められない限りは、触らない。
それが、この花の為にもなるのだと、知っている。


***


道端に咲く花さえ、気に入らない。
眼鏡の奥の硝子玉のような目を奪うものが許せない。

「緑間っちは、オレだけ見てればいいんスよ」

その腕にしがみついて、視線をこちらに向けさせるだけで安心する。

「オマエは道端の花を見ることはないのか?」
「緑間っちがいるのに?」
「オレがいなければ、見るのか?」
「……見ないっスね」

道端の花に価値を見出せない。
緑間以外に必要なものがない。

(バスケは別…)

でも、たぶん。
その時が来ないからわからないけれど。
バスケより緑間の方が大切だと思う。

「緑間っち」

呼べば、目が合う。
今は、自分だけを見ている目が好きだ。

「時々、その目を潰したくなるっスね」
「潰されるのは、困るのだよ」
「困るだけ?」

バスケができなくなるから?
外を歩けなくなるから?

緑間の目に、世界はどんな風に映っているのだろう。
緑間の目に、映るもの全てが羨ましくて憎い。

「オマエの顔が見られなくなってしまうのだよ」

口角を少しだけ上げて、瞬きをする緑間が、酷く美しかった。
こんなにもキレイな生き物を他に知らない。

「緑間っちって、オレの顔好きっスよね」
「顔だけじゃないがな」

近付けて、見詰め合って、お互いの目に映る世界に二人きりになって。
唇を重ねて、近付いて、抱き締め合って。

道端の花さえ、気にならなくて。

(踏みつぶされなくて良かったっスね)

風に揺れる花の色さえ、思い出せなかった。


***


「緑間っちが道端に倒れてたら、オレは拾って帰って、きっと閉じ込めちゃうっスよ」

清潔なシーツ。
キレイな水。
栄養のある食事。

「だから、道端に倒れる前にオレのところに来て?」

そうしたら、優しく迎え入れるから。

「……。考えてもいい」

緑間は少し嬉しそうに目を伏せて、黄瀬と手を繋いだ。

道端に花が咲きます。
それは、道しるべのように、行く先に咲いていきます。

「緑間っち」

二人の世界に二人だけの道ができる。
その道端に、花が咲きます。

「黄瀬」

呼び合って、確かめ合って、見詰め合って。
それから。
その先は。

「好き」

道端に咲く花が、風に揺れる。



終わり



 
     
 

2013/08/21

 
     
 

※思いついたままを書く作業が好きです。
お互いの世界にお互いしかいなければいいのにって、ずっと思ってる。