王様と下僕の友情

 
     
 


「なぁ、真ちゃんはなんで黄瀬クンが好きなの?」

放課後の教室は、窓からの風がゆるやかに流れていく。
緑間は、唐突な高尾の問いかけに驚いた素振りも見せず、手元の日誌を書き続けた。

「オマエに話す理由がないのだよ」
「だって気になるじゃん」
「気にするな」
「気にさせろよ。時々理由もなく朝から不機嫌なのはだいたい黄瀬くんのせいだろ?」
「……」

高尾の言葉に思い当たる節があったのか、緑間はシャープペンを置いて顔を上げた。

「オレは不機嫌だったか?」
「けっこー隠してただろうけど、不機嫌だったね」
「そうか」
「気づいてなかったとかいう?」

風が緑間の前髪を揺らした。
ほんの一瞬、目を伏せた顔を見て、改めて思うことがある。

(キレイな顔、してんだよな)

時々口煩くて、呆れるくらい真面目で、人と違った拘りを持つから変な人と思われる。
そして、当人はそれを気にしていない。

(マイペース…というより、じこちゅー?)

緑間は王冠の似合わない王様だった。
偉そうで、上から物を言うことに慣れていて、チームの中心にいて、わがままも言って。
本当は、自分でなんとかできることも多いだろうに。
できると認めた相手に委ねる判断力は強さだった。
そんな王様は、一途に想う相手がすでにいるという。
緑間に愛されたら、幸せになれそうな気がするのは、どうしてだろうか。
朝も昼も放課後も、ずっと一緒にいてもわからない。

「黄瀬とは、ずっと、そうだから、どうしてとかなぜとか、理由を探しても見つからないのだよ」

書き終えた日誌をぱたりと閉じて、緑間は言う。

「じゃあ、今日不機嫌だった原因は?」
「あのバカが午後十一時を過ぎてから会いにやってきたせいかもしれない」
「なにそれ、惚気?」
「走り込みのついでと言っていたが、時間がおかしいのだよ」
「黄瀬くんが心配でいらいらしてたっつーわけか」
「違う。それに少しでも喜んだ自分が腹立たしいのだよ」

がたりと音を立てて緑間が席を立つ。
それを見上げれば、明らかに今の失言を後悔しているようだった。

「やっぱ、惚気じゃん」

からかうように笑えば、耳まで赤くなるから、どうしようもない。

(恋しちゃってんのね)

特別という括りにすれば、自分もその中に入っているだろう。
それでも、恋愛感情の持つ特別さは比にならない。
比べる方が間違っているのもわかっている。
特別という好きのベクトルが異なっているからだ。

(別に緑間とそーゆー関係になりたいとか、少しも思わねえんだけど)

それでも、その位置から見える表情は随分と幸せで優しいのだろうと思えば、羨ましいとは思う。
彼女と友達の扱いは異なる。
それと同じように見せかけて、友達と恋人を両立できるのだ。

(なんて、贅沢…)

職員室へと向かう緑間を追いかけて、その背中を見つめれば、自分の知らない男のようで、つまらない。
隣りに並んで、「遅くなっちゃったな」と言えば「待たずともよかったのだよ」と答える。

「真ちゃんいないとつまんねーの」
「子供か」
「子供なのだよ」

独占欲の強い、子供。
母親を友達を自分以外の誰かに取られることが何よりも不安であり、嫌なことだ。

(この年で、まだ、そーなのかよ)

せめて学校にいる間は、一人占めできるから。

「真似をするな」

べしっと日誌で頭を叩かれて、笑う。

「真ちゃんはなんで黄瀬クンが好きなの?」

答えのなかった問いをもう一度投げかける。

「オマエには言わないのだよ。ロクなことにならない」
「ちょっと、なにそれ。もしかして俺、そんなに信用ねえの?」
「……」

慌てて見上げれば、ほんの少し緩んだ口元が目に入る。
やられた、と思った。
話題が見事にすりかえられた。

「信用はしているのだよ」

絶句した高尾を置いて、緑間は職員室へと入っていく。

(バカはどっちだ…)

悔しさと嬉しさにぐるぐると思考を占領されて、今日不機嫌だった緑間の気持ちが少しだけわかったような気がした。

(喜んでる俺にムカつく)

耳まで熱くなるのを感じて、高尾はその場で膝を抱えた。



終わり



 
     
 

2013/08/24

 
     
 

※黄瀬くんと付き合ってる緑間くんとお友達な高尾くんの話。
緑間くんと高尾くんの相棒で、
だけどそこにあるのは友情でしかない関係が好きです。