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ずっとそこに在る人 |
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伸ばした手の先に触れる前にとけて消えることなんてあるのだろうか。 いつだって、その人は体育館で真っ直ぐにゴールを見据えてボールを撃っていた。 誰もが、自分の力を持て余していたけれど、静かに開華したその力に流されることも驕ることもなく、ただひたすらにその力を磨くことに専念していた。 ああ、どうして、この人は真っ直ぐのままなのだろう。 何度もその背中を眺めた。 振り返ることはなかった。 だから、時間を気にすることなくその背中を見詰めることができた。 いつか、それを自分の手中に収めることができるかもしれないと、頭の片隅にそんなことを思った。 形はわかっている。 足りないものがわからない。 (今は、緑間っちがいるから必要ないけど) きっと、このままバスケを続けて行くのであれば、必要となる日がやってくる。 いつかは、わからないけれど、そう遠くもないだろう。 この時間は長くは続かない。 夏までの期間限定だ。 あと○○日。 そう、数えられてしまう。 期限付きの何か。 終わりが見えているのに、もう、元には戻れないのだから、どうしようもない。 広い体育館に一人。 居残る背中が美しくも寂しい。 ボールを二回ついて、それから、シュートモーションに入る。 覚えてしまった、そのルーティーン。 ボールを二回ついた瞬間、横からそっと手を伸ばす。 バウンドしたボールを持って、ドリブルでゴール下まで運ぶ勢いのままジャンプをしてシュートを決めた。 ゴールのリングががたがたと揺れる。 久しぶりに、ボールに触れたような気がした。 とけて消えはしなかった。 あれは、夢だったのだ。 「黄瀬」 「邪魔したくなったんスよ」 言われるより先に言う。 「……オマエの顔を久しぶりに見たのだよ」 ゴール下に立つ黄瀬を気にせずに、緑間は足元のボールを拾って、再びシュートを撃つ。 ボールは天井に届きそうなくらいに高く弧を描き、ゴールへと突き刺さる。 それまでの時間、黄瀬は正面から緑間を見詰めた。 「寂しかった?」 背中は語らなかった。 「なぜ?」 「ひとりぼっちだったでしょ。ずっと」 青峰が去り、紫原が去り、そして、自分も。 一年前の初夏とは異なっている今。 たった一年と大人は言うけれど、一年は長い。 緑間は答えなかった。 答えるかわりに、シュートを撃った。 背中だけでなく、顔も腕も両足もちゃんと綺麗だった。 緑間が答えない事は想定内であり、答えが欲しかったわけでもない。 何を言えば、緑間は動揺するのだろうか。 足元に転がるボールを拾って、シュートを撃った。 バックボードに当たって、ボールはゴールに入る。 簡単だった。 「黄瀬」 「なんスか?」 「邪魔なのだよ」 「邪魔をしてるんスよ?」 笑う。 簡単だった。 シュートを決めるのも感情を隠して笑うのも、難しい事じゃない。 「緑間っちは、シュートを撃つ時、何を想うんスか?」 「何も」 「え?」 「何もない。真っ白なのだよ」 ボールは何度でも弧を描き、ゴールを揺らす。 繰り返し、繰り返し、何度でも。 (一人で、ずっと…) 緑間は変わらない。 変わっていない。 黄瀬は両手を伸ばして、緑間を正面から抱き締めた。 湿ったTシャツがひやりとする。 どれくらい、練習を続けるつもりなのだろう。 「黄瀬っ」 驚いた声が耳元に響く。 触れてもとけて消えなかった。 緑間は、消えて無くならない。 消えてしまうのは、後○○日と表示された世界だ。 (寂しいのは、オレか…) 日常がぼろぼろと崩れ落ちて、跡形もなくなるだろう。 (なくなって欲しくないんスよね) 一生言わない、秘めた思い。 それは、まるで、街中に流れる流行歌。 叶わぬ恋のようだ。 「緑間っち」 何を察したのか、何が伝わったのか。 緑間は小さな溜息の後、気が済むまで抱き締めさせてくれた。 優しい人は、強すぎて、触れるのさえ躊躇う。 それを、知らずに、ここに在るのだ。 (消えないから、忘れない) 欲しかったものは、確かに、ここに在った。 終わり |
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2013/09/13 |
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※変わらない強さが好きだと、どうすれば伝わるのだろう。 |
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