雨宿り

 
     
 


「うわ、出遅れた…」

まだ日も暮れていないというのに、薄暗い生徒玄関で立ち尽くして、ガラス越しに土砂降りの雨を眺めた。
じわじわと天気が悪くなりそうな空模様だったのは、午後の授業中からわかっていたはずだったが、うっかりしていた。
周りに居残る生徒の姿はなく、傘立てにも傘はひとつとして残っていない。
濡れて帰るか、もう少しやむのを待つかで、下駄箱の前で一人迷う。
そんな中、目の前のガラス戸が勢いよく開いた。

「緑間っち?」

全身ずぶ濡れの生徒がやってきたと思ったら、それは、緑間だった。
なんとも珍しい姿を見てしまったと黄瀬は、前髪から滴をぽたぽたと落としている人を見た。

「黄瀬か。どうした?傘がないのか?」
「どうしたはこっちのセリフっスよ」
「帰る途中で降られたのだよ。家に帰るよりも学校の方が近かったから、雨宿りしようと思ったんだが、一気に土砂降りになってこのざまだ」

べったりと制服のシャツが身体に張り付いて、そのラインを浮き立たせている。
身長は伸びたのに、筋肉や体重はまだ追いつかないその細い肩や腰をまじまじと見るのは、初めてだったかもしれない。

「夏だからって、濡れたままじゃ風邪ひくっスよ。オレ、使ってないタオル持ってる」

黄瀬は肩にかけたカバンをおろし、中からタオルを一枚取り出して、緑間に渡した。

「ありがとう」

素直に礼を言われ、心臓が飛び跳ねた。
滴が零れる首筋も指先もやけに目について、離れない。

(あ、れ?)

廊下の蛍光灯の明かりが陰影を浮き出して、まるで、緑間だけれど、緑間でないように見えた。


***


雨の勢いがおさまるまで、もうちょっと待とうということになり、二人は廊下に座った。
生徒一人通らない玄関前は、酷く静かで、雨音だけが響いた。
沈黙が苦手な黄瀬が、話すことを探しながら、緑間の様子を見れば、くしゅんっとくしゃみをひとつ。

「かわいいくしゃみっスね」
「うるさい」

ちょっと照れたように顔を逸らす勢いで、水しぶきが飛んでくる。

「緑間っち、ちゃんとふいたんスか?」

その顔を覗き込もうと体勢を変えた。
どれほどの雨を浴びたのか、シャツはまだべっとりと緑間に張り付いたままだ。

「あれ?珍しい、素肌の上にシャツ着てるんスね」

見慣れない違和感は、そこにあった。
普段は下着がわりのTシャツを下に着ているというのに、今日はそれがないのだ。

「部活がないから、着てこなかったのだよ」
「へー。乳首透けてるっスよ?」
「べつに男なのだから……ん、あっ」

黄瀬がシャツの上からその突起を吸い付くように舐めれば、緑間から甘い声が零れる。

「かわいい声」

笑いながら、さらに舌先で転がすと、びくびくと体が震えた。

「ば、か…、なにをするのだよ」

べしっと後頭部を叩かれても黄瀬はシャツの上から透けているそれを舐めまわした。

「……っ、あ、ぁん」
「いつもより感じちゃった?エロイ声」

布越しの濡れた感触はそんなにそそられはしないけれど、緑間の反応がいいのは、きっと布越しだからだと、黄瀬は思う。

(や、ばい…かな?)

これ以上せめれば、自分も耐えられなくなりそうで、やめどきを見計らっているうちに廊下を歩く足音が聞こえた。

「お前たち、何をしているんだ?」

振り返れば、教師がそこに立っていた。

「雨宿りっス」
「傘がないのか?」
「はい」

薄暗い廊下で、何をしていたかなど、教師からは見えるわけがなかった。

「しょうがないやつらだな。たしか、職員用の傘があったはずだから、ちょっと待ってなさい」

教師がそう言って足早に去っていくのを確認して、緑間の方を向けば、真っ赤になったまま震えている。

「続き、オレの家でする?」

黄瀬はにっこりと笑って、緑間に口付けた。



終わり



 
     
 

2013/10/15

 
     
 

帝光中学時代。