ぎゅっぎゅ

 
     
 


背後から抱き締めて、その背中に耳をあてて、心臓の音を聞く。
死んでいると思ったことはないけれど、生きているんだと思う。
しばらく、そうしてくっついていることを咎めることもなく、そのままにしてくれるのは、なんで?

「ねぇ、緑間っち」

目を閉じたまま、名前を呼ぶ。
頬から伝わる温かさが心地好くてこのまま眠ってしまいそうだった。

「なんだ?」
「眠い」
「寝ろ」
「やだ」

ぎゅうぎゅうとしがみついて、子供みたいにぴったりと身体を重ねて。
この背中は居心地が好すぎてしまう。

「黄瀬」
「んー?」
「重いのだよ」
「そうっスよね」

体重かけてるから。

「暑いのだよ」
「オレもっス」

人間の体温って、どうしてこう、変わらないのに熱だけ上がるのだろう。

「どうした?」
「どうもしてないっス」

知ってることと知らないことと、それを追求しないから、いい。
ぬるま湯につかりまくって、ふやけて、ぶよぶよになってしまう。
いっそ、どろどろにとけてしまったら、楽になるだろうか。

「いま、めんどくさいって思ったでしょ?」
「ああ」
「どうせ、オレは重くてめんどくさい男っスよ」

ぐりぐりと額を背中に押し付けて、このままくっついてしまえばいいのにと思う。

(同化しちゃったら、緑間っちに見てもらえなくなっちゃうっスね)

どうしようもない。

「それが、黄瀬なのだよ」

おだやかな声が、背中から伝わる。

(こんな時ばっかり、優しい)

緑間を卑怯だと思うけれど、自分もかなり卑怯なことをしているので、この場合は引き分けかもしれない。

「バカって言わないんスか?」
「言って欲しいのか?」
「言わなくていいっス。いつも聞いてるから」

緑間の腰にまわした腕をそっと緩めて、それでも背中からは離れなくて、顔が見えないけど寂しくはなかった。

「黄瀬」

腰にまわした手をそっと握られて、少しだけ、心臓が飛び跳ねた。

「好きなのだよ」

掴まれた手が持ち上げられた瞬間、指先に唇の触れた感触が伝わる。

「緑間っち」

こつんっと、背中に額をあてた。

(なんて、かわいいことをするんだろ)

知らなかった。
緑間がこんな人だとは。
そんなことばかり知ってしまう。
出会ってからも付きあってからもずいぶんと長い時間が経ったと思っているけれど、知らないことばかりだ。

「緑間っちのバカ」
「オマエほどじゃないのだよ」

ぎゅっと手を握られて、指先がどんどん熱を持つ。

(ねえ、いま、どんな顔してんの?)

いつもと変わらない涼しい顔で、反応を楽しんでるのだろうか。

「オレも好き」

べったりと背中に張り付くようにくっついて、目を閉じた。
今度こそ、本当に眠ってしまいそうだった。



終わり



 
     
 

2013/10/18