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やだやだやだ |
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「だーかーらー、やだって言ったんスよ」 「オマエが嫌だと言ってもどうしようもないのだよ」 先刻から、何度も繰り返す同じやりとり。 先にも進まず、後にも戻らず、堂々巡りとはこのことを言うのかもしれない。 「やだやだやだ。ぜったいやだ」 子供みたいに駄々をこねる。 お菓子売り場で仰向けになって両手両足をばたつかせて大声で泣き喚くように。 (やったことないけど) 緑間を正面から抱き締めて、先刻から宥めるように背中を撫でる手の優しさを感じつつも頷くわけにはいかなかった。 「最初から決まっていたことなのだから、仕方ないだろう?」 「やだ」 「オマエが嫌だと言ってもどうにもできないのだよ」 「このままくっついてはなれなかったら、どうにかできるっスよね」 「バカめ。できるわけないだろう」 「うーっ」 ぎゅうぎゅうとくっついてみるものの、緑間の答えは変わらないし、優しいし、譲りたくはないけれど、どうしようもないことも本当はわかっている。 (だって、学校が違うから) 根本的な障害は、今更どうにもできない。 しかも、それを選択したのは、まぎれもない自分自身だ。 だからといって、潔く認めたくもなかった。 「緑間っちが、風呂に入れないようにすればいいんスよね」 名案が浮かんだと告げれば、さすがに冷ややかな声が耳元に響いた。 「実践したら、オマエのメールには一生返事をしてやらないのだよ」 「え?やだやだ。それは、やめて」 それでも、懲りずに目の前の首筋に強く吸い付いて、紅い痕を残せば、容赦のない鉄拳が後頭部を直撃した。 「……っ!!!!!」 声も出ないほどのその痛みを堪えながら、それでも緑間を放さなかった。 「舌の根も乾かないうちになにをするのだよ、馬鹿者が」 「……だって」 「合宿の宿泊先が大浴場しかないのは当然のことなのだよ。そうでなくても日常的に使用している学校のシャワールームですでに見られているのだから、オマエはなにをそんなに嫌がるのだよ」 「やっぱりやだやだやだ。緑間っちの裸を見ていいのはオレだけっスよー」 大きな子供にしがみつかれた緑間から、深い深い溜息だけが零れた。 終わり |
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2013/10/20 |
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