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高尾くんと黄瀬くんと緑間くん |
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「浮気?」 「そう。黄瀬くんが」 「オレより好きな相手ができたのなら、しかたがないのだよ。人の気持ちはどうにもできない」 あっさりと、思っていた以上に簡単に答えるのは、最初からずっと準備しているからだ。 らしいとも思うし、らしくないとも思うのは、緑間だからだ。 時々、知っている緑間と知らない緑間がいる。 当たり前のことだけど、それがおもしろいと思う。 (おもしれえから、メールしとこ) 高尾は携帯を取り出して、いまのやりとりをそのまま送信した。 もちろん相手は黄瀬である。 最近、ほんの少しだけ、仲良くしているのだ。 *** 「黄瀬クンはどーなの?」 放課後呼び出されたマジバで、ポテトを食べつつ声を潜める。 目の前には、怒っているのか拗ねているのか悲しんでいるのかよくわからない表情の黄瀬がいて、きっと傍から見れば憂い顔もかっこいい!などと騒がれるに違いない。 素材の違いとは、まさにこのことだ。 「なにがっスか」 「浮気」 「オレがするわけないじゃないっスか。そんなに信用ないのかと思うとショックすぎるっスよ」 「そうじゃなくて、緑間が」 「するわけないじゃないっスか」 即答で、断言。 確かに緑間が恋人がいるのに他の誰かに興味を持つとは思えないのは、わかる。 もともと、他人に対する興味の薄い人間だった。 緑間の目に留まる人間は数少ない。 「万が一」 「億が一にもないっスけど、もし、緑間っちが浮気したら、緑間っち殺して、オレも死ぬ」 口調は冗談めかしていたけれど、黄瀬の目は、完全に本気だった。 宿った光の鋭さは、背筋がぞっとするほどで、聞かなければ良かったと、高尾は後悔する。 黄瀬の緑間に対する執着心は、巧妙に隠されてはいるものの、時々零れることがある。 害はないと理解しつつも緑間の側にいる高尾のことを良く思っていないのは、高尾も知っていた。 それでも、お互いに素知らぬふりをして、仲の良いふりをして、友人風の関係を続けている。 特別確かめたわけではないけれど、お互いの利害が一致しているからだ。 「物騒なことを公の場で話すな。面倒なことになるのはごめんなのだよ」 背後から聞き覚えのありすぎる声が降ってきた。 (なにも言わずに来たんだけどな) 緑間より先に学校を出て、ここに来たのだ。 後をつけられてはいない。 でも、緑間はやってきた。 「緑間っち、オレ、浮気なんかしないっスよ」 「知っているのだよ。大きな声を出すな」 緑間を見上げた黄瀬が、真っ先に訴える。 テーブルの上にトレーを置いて、緑間は高尾の隣りに座った。 「じゃあ、なんで?」 「高尾に問われたのは一般論だろう?浮気をする、しないの判断はまた別の問題なのだよ」 「オレが本当に浮気したらどうするっスか?」 「しない」 「だから、したら」 「するのか?」 「しない」 「ならば、考えるまでもないのだよ」 目の前で繰り広げられる見事な誘導に、だから、付き合っているのかと妙に納得をする。 ストレートな惚気を聞かされて、本来、恥ずかしいなこいつら!と照れるのは高尾のはずだった。 それ以上に真っ赤になって絶句してしまったのは、黄瀬の方で、高尾はいつもの調子でぶはっと吹き出して、大笑いをした。 緑間は、そんな二人を放置したまま、ハンバーガーを食べだした。 「緑間っち…」 「なんだ」 「オレ、浮気、しないっスよ」 先刻までの憂えた表情はどこへやら。 真っ赤になったまま、それでも必死に訴える黄瀬は、高尾が抱いていたイメージをどんどん壊していく。 (変なやつら) 笑いながらオレンジジュースを飲んで、一息ついていると、緑間の視線に気付いて顔を向けた。 「オマエは本当にろくなことをしないのだよ」 「悪かったって」 「悪いと思ってもいないくせに簡単に謝るな」 しっかりと見抜かれているということは、現状をおもしろがっていることも知られているということだ。 敵わないなと思いつつ、それでもやめられない楽しさは、第三者だからなのかもしれない。 緑間はあっという間にハンバーガーとジュースを平らげて、席を立った。 「え?帰るんスか?」 「いる理由もないのだよ」 「なんで来たんだよ」 「昼間の問いも含めて、高尾の挙動が不審だったから、気になっただけなのだよ。悪い予感ははずれない。遅くならないうちにオマエたちも帰るのだよ」 驚く二人の視線を無表情で受け止めて、緑間はさっさと行ってしまった。 思わず見送ってしまったけれど、慌てたのは黄瀬だった。 「高尾くん、またね」 残ったジュースを片手にトレーを持って、黄瀬は緑間の後を追いかけて行った。 「ああ、またなー」 たぶん、この声は黄瀬の背中に届いていないだろう。 (次はどうしよっかな…) 黄瀬を好きな緑間も緑間が好きな黄瀬も見ていて飽きないと、高尾は笑いながらポテトを食べた。 終わり |
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2013/10/20 |
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