のみこんだことばのさき

 
     
 


手を伸ばして触れる。
隣りに並ぶ人の手を握る。
そっと握り返してくる温もりをしあわせと呼ぶなら、このまま永遠に時が止まればいいと願う。
約束をする。
次に会う約束。
日にちも時間も決めない約束。
ただ、「次も会おうね」と、それだけの。
大切な、約束。

「放したくないんスけど」

黄瀬の家から、緑間の家まで。
ちょうど半分の距離を一緒に歩く。
別れ際はいつだって、寂しくて、切なくて、だけど、思うようにいかない。
休日の朝から、夜まで。
黄瀬の部屋で過ごした時間は、だいたい十二時間。

(たりない…)

もっと、ずっと、いつまでも、一緒にいたいのに。
敵わない現実は、とても強固で、負けてばかりいるから。

(早く、大人に、なりたい…)

そんな、子供みたいなことを願う日が来るなんて、思ってもいなかった。
指先の温もり。
それから、触れていない場所の温もりと感触。
全部、覚えている。

「……、時間をのばせば、その分だけ」

静かに、緑間の言う言葉を唇で塞いで、その先を飲み込んだ。

(こんなに近いのに)

側にいるのに。
離れたくない。
放したくない。

(どうすればいい?)

答えはない。
壁は厚く、高く、硬い。

「緑間っち」

顔を近づけたまま、その瞳を覗き込む。
真っ直ぐに見つめてくるから、そこに映る自分が歪んで見えた。

「早く…」

一緒に暮らしたいと、言いたかった、言葉は、緑間の唇に塞がれて飲み込んでしまうしかなかった。
どうにもならないことを口にすることを嫌う緑間は、言霊を信じているという。

「黄瀬」

触れるだけのキスは、いつもより熱くて、甘かった。
耳元に響く声。

「好きっスよ」

先回りをして、伝える言葉は緑間の耳に届いただろうか。
欲しい言葉があるけれど、先に渡したい言葉がある。

「オレもなのだよ」

ぎゅっと抱き締め合って。
それから、温め合って。
体温を感触を声を言葉を忘れないように。

「緑間っち、またね」
「ああ。またなのだよ」

手を振って別れた後は、お互いに振り返らない。
それも、約束。



終わり



 
     
 

2013/11/02