会いたいの理由

 
     
 


相手を見て態度を変えるのは、その相手に合った方法でなければ、相手をしてもらえないからだ。
そして、そこに含まれる自分の気持ち。

(緑間っちに、1ON1してほしいっスとか一緒にバスケしたいっスって、思わないし)

待ち合わせは午後五時。
あと二十分ほどの時間がある。
早く着きすぎたのは、予定していた電車より一本早い電車に乗れたからだ。
時間を潰すには中途半端で、黄瀬は駅前でどうしようかと思案に暮れた。

(なんでか、会いたくなるんスよね)

付き合っているからとか恋人だからとか、それ以前に、緑間には会いたくなる。
電話をするだけでは足りないのは、その顔が見えないからなのだろうか。
ほとんど変わらないと思っていた緑間の表情は意外と豊かに変化する。
機嫌の良し悪しはそのかもしだす空気でわかったりもする。
それは、表情だったり、声音だったり、態度だったり。
だからこそ、顔を見て話したいのだ。

(そもそも、緑間っちは、電話もメールもあんまり相手してくれねえし)

メールの返事はほとんど来ないし、電話も用件が済めばすぐに切ろうとする。
直接会って話したときだけは、どんなくだらない話でも聞いてくれるのに。

(なかなか会えないから、電話で話したいのに)

話すことがたくさんあるわけではない。
共通の話題はバスケのことだけだし、その他はお互いに趣味が全く合わない。
たまに宿題の問題が解けずに聞くことはあるけれど、それだって別に話したいことではないのだ。

「早いな」

ぼんやりしすぎていた。
近づいていた緑間に気付かなかったのは、失敗だった。
声をかけられて、驚きすぎて、悪いことをしていたわけではないのに、なんだか落ち着かなくて、数歩後退った。

「どうした?」
「びっくりした」
「それは、見ればわかるのだよ」
「緑間っちが、近づいてたの、気付かなかったんスよ?」
「珍しいな」
「悔しいっス」

せっかく、緑間よりも早く到着していたというのに。
余裕を持って出迎える予定だったのだ。

「オマエはいつもなにかと戦っているな」
「そんなことないっスよ」
「やり直すか?」
「なにを?」
「もう一度駅から出てくるところまで戻ってもいいのだよ」

さすがにその提案は突拍子もなくて、黄瀬は思わず大声で笑ってしまった。

「み、緑間っち、それ、は、なんなんスか…?」

緑間の譲歩も珍しいが、その発想が緑間から出てくるとは思いもしなかった。
しかも、冗談ではなく大真面目なのだから、始末におえない。

(こんな人だったっけ?)

どれくらい一緒にいてもその反応まで予測することなどできないのだ。

(だから、会いたいのかな?)

会うたびに知る、新しい部分が、見たくなるのから、会いたくなるのかもしれない。
原因の一つがわかったような気がしたのだけれど、今は、この止まらなくなった笑いをどうにかするのが、先決だった。

「オマエがそんなに笑うようなことを言った覚えはないんだが…」

緑間は呆れたように溜息を吐いたけれど、黄瀬の笑いがやむまで、その場で待っていてくれた。



終わり



 
     
 

2014/01/11

 
     
 

会いたければ会えばいい。