バレンタインデー

 
     
 


「緑間っち、チョコちょうだい」

両手を差し出してにこにこと笑う黄瀬を一瞥すると、緑間は目の前に広げられた手のひらをぱしんっと平手打ちする。

「いったぁ〜」
「食べきれないほど貰っておいて、まだ欲しがるのか」
「ちがうんスよ。緑間っちからのチョコが欲しいいんス」
「なぜだ」
「んー。付き合ってるから?」

黄瀬は首を傾げて、それからシュート体勢に入る直前の緑間から、ボールを奪うとそのままゴール下へと運んでシュートを決めた。
体育館には二人きり。貰ったチョコレートの数を競うような関係ではなかったけれど、とりあえず赤司からは、桃井のチョコレートには気をつけろと異例の注意が出た。桃井のいないところでの話だ。

「付き合っているなら、オマエがオレに寄越してもかまわないのだよ」
「え?なにそれ。緑間っち、オレからのチョコ欲しいんスか?」
「いらん」

緑間はコートの端に置いておいたタオルを取りに移動する。
黄瀬もその後ろについていき、転がしておいたドリンクボトルを拾った。
静かな体育館は、その後も静かなままだった。

***

帰り道、黄瀬が緑間と方向が別れる交差点の赤信号で立ち止まる。
黄瀬の両手は紙袋で塞がっていた。

「黄瀬」

信号が青に変わる。
緑間が珍しく呼び止めた。

「アメリカでは、男性が女性に花を贈るそうなのだよ」

緑間がコートのポケットから取り出したのは、手のひらより小さな箱だった。
両手が塞がっているのを狙ってか、緑間はそれを黄瀬の持っていた紙袋へと入れた。

「緑間っち」

それは、花ではないし、そもそも自分は女性じゃない。
なんて言い返せばいいのか迷っているうちに緑間がふと、口の端を緩めた。

「去年もオマエはオレからのチョコが欲しいと言っていたからな」

去年は、まだ、付き合っていなかった。
バレンタインデーに縁がなさそうな緑間を半分からかうように言っただけだ。
その後、緑間も紙袋一つ分くらいはチョコレートを貰うことを知ったのだけれど。

「覚えてたんスか?」
「忘れないのだよ」

そうしている間に黄瀬が渡ろうとした信号は赤に変わり、緑間が渡る方が青に変わる。
紙袋掴んだまま黄瀬はその勢いに任せて、緑間を抱き締めた。
紙袋を放り出さなかったのは、その中に緑間からのチョコレートが入っていたからだ。

「緑間っち、好き」

今日の緑間がカバン以外持っていないことにそこでようやく気がついた。
去年は紙袋一つ分、貰っていたのに。

「知ってる」

そんな素振りは全く見せなかった。
最後の最後で、このサプライズは卑怯だ。
黄瀬は緑間の隙をついてその頬に唇で触れてから、離れる。

「緑間っち、ありがとっス」

満面の笑顔を見せて、黄瀬は青色に変わった信号を確認して、横断歩道を走って渡った。

(くっそ…)

悔しさと嬉しさでごちゃまぜになった気持ちを抱えて、黄瀬はそのまま走り続けた。
誰にも見せたくないくらい、真っ赤な顔をしているに違いない。
熱をもった頬と耳と首筋を感じながら、黄瀬は両手を上げて飛び上がった。



終わり



 
     
 

2013/02/14

 
     
 

帝光中学時代。お付き合いしている黄緑☆