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夕陽に照らされた教室の片隅で、一人居残る姿を見つけた。 金色の髪が橙色の光を反射して、きらきらと輝いていた。 綺麗だと思った。 さらさらと揺れる前髪が両目を隠す。 ジュースを飲むのに俯いた時、ふと、手を伸ばした。 金色の前髪は、見た目と同様にさらさらとしていて、何も変わっていなかった。 「緑間っち、なっ、なんスか」 目を真ん丸く見開いて驚く黄瀬は想定内だったが、その勢いで椅子ごと倒れるのはさすがに予測はできなかった。 「何をしているのだよ」 制服のズボンについたほこりをはらって、がたがたと椅子を起こして座りなおす。 ここが、ハンバーガーショップのテーブル席だというのを忘れているのだろうか。 周囲を取り囲むように席を確保している女子高生達の視線がちらちらと突き刺さる。 中学時代より取り巻く女子の数が増えたようだったが、空気を読んでいるのか、指導されているのか、店内などで声をかけてくる事はなかった。 「何って、緑間っちが急に触るのが悪いんスよ」 「人聞きが悪いのだよ。触ったのはオマエの髪であって、オマエ自身じゃない」 「触るなら触るって言って欲しいんスけど」 「オマエだって、断りもせず勝手に触れてくるじゃないか。おあいこなのだよ」 「触りたいって言ったら触らせてくれるんスか?」 「断るに決まっているだろう?」 「そう言うと思ってたっス」 黄瀬がにっこりと嬉しそうに笑うので、緑間は不意を突かれた。 素早い動きで手が伸びた瞬間、頭をくしゃくしゃに撫でられる。 「きっせ・・・っ!」 「お返しっスよ。緑間っちの髪、むちゃむちゃさらさらっスね」 「バカか」 してやったりと笑う黄瀬の頭をべしっと叩いたあとで、緑間は乱れた髪を手櫛で直す。 「いったいっスよ!」 「やかましい」 「照れなくてもいいじゃないっスかぁ〜」 「右手のグーでいいか?」 緑間が右手の拳を持ち上げた。 バスケットボール選手の利き手の力は常人のそれとは異なる。 「ちょ、待った。緑間っちのそれ、むっちゃ痛いっスから。知ってるっス」 黄瀬が両手で頭を押さえるように抱えて伏せた。 (子供か・・・) 緑間は呆れたようにその様子を見下ろして、フライドポテトを食べる。 怒る気も失せるとは正にこの事だ。 (黙ってればそれなりの外見をしているというのにな・・・) 黄瀬はモデルという仕事をしているのだ。 世間一般が評価するレベルの容姿なのだろう。 自信とプライド。 それが、黄瀬を構成する二本の支柱なのだ。 (それと、負けず嫌い) 負ける事を好む人間は、いない。 負けるのは、諦めた瞬間か努力を怠ったが為の実力差だ。 足りなければ補えばいい。 「あ、れ?緑間っち?」 いつまでたってもやってこない衝撃に黄瀬がそおっと顔を上げた。 「本気で殴ると思ったのか。だからバカだというのだよ」 「バカバカ言いすぎっス」 「他に言いようがなくてな」 「ひどいっス」 拗ねたように唇を尖らせた後、黄瀬はハンバーガーに噛り付く。 良く見ると前髪の上に何か白いものが引っかかっていた。 「黄瀬、何かついてるのだよ」 「え?」 そっと手を伸ばし、髪を撫でるようにその白いものを取った。 「ただのほこりか。さっき倒れたときにでもついたのだろう」 緑間はトレーの上の紙くずにそのほこりを捨てる。 「今度はちゃんと予告したのだよ」 目の前の黄瀬は、わかるくらいに頬を赤く染めつつ、一気にハンバーガーをたいらげた。 「ずるいっス」 「何が」 「オレだって緑間っちの髪についたごみを取りたいっス」 「わけがわからん」 「オレばっかりどきどきしてムカつくっス」 「それはオレのせいじゃないだろう」 「緑間っちのせいっス」 急に真剣な表情になる黄瀬に緑間はほんの一瞬言葉を失った。 この数ヶ月で随分大人びた顔つきに変わった。 言動も行動も変わっていないくせに、こんな時ばかり表情で訴えてくる。 「責任転嫁するとはいい度胸なのだよ」 バシッと思い切りよく黄瀬の額を叩いて、緑間は席を立った。 スポーツバッグを肩に掛け、紙くずののったトレーを片手にさっさとその場から離れた。 「緑間っち、ちょっと、待って」 黄瀬も慌ててトレーを持って緑間の後を追いかけた。 店の外に出た所で、黄瀬に捕まった。 「言いすぎたっス」 しょんぼりと頭を下げる黄瀬の髪は、街灯の光を受けて少しだけ明るさを増した。 「でも、たったあれだけの事でどきどきするくらい、緑間っちが好きだから・・・」 言った後で、驚いた顔をしたのは、黄瀬の方だった。 言われた緑間も驚いていたのだけれど、黄瀬が泣きそうなくらい『しまった』という表情のまま固まってしまったので、思わず頭を撫でていた。 (好き・・・?黄瀬が・・・?) 暫くの間大人しく頭を撫でられていた黄瀬が顔を両手で覆ってその場にしゃがみこんだ。 「黄瀬?」 「あー、もー。オレってほんとバカっス。もっとちゃんと場所とかいろいろ考えて、かっこよく言うつもりだったんスよ。こんな勢いというかうっかりというか、そーゆーんじゃなくて」 そんな黄瀬を見下ろしたまま、緑間はどんな反応をすれば良いのかはかりかねていた。 好きとか嫌いとか、そんな感情で黄瀬の事を考えた事がないのだ。 確かに話は合うのかもしれない。 電話やメールも無視はできない。 けれど、それは特別な感情を抱いていたわけではないはずだった。 「緑間っち」 立ち上がった黄瀬は笑っていた。 背筋をしゃんと伸ばして、それから緑間と目を合わせた。 「今日の事、忘れなくていいっス。緑間っちがオレの事そんな風に考えてないのは知ってるっス。でもオレの気持ちは変わらないっスから。今度はちゃんと言うっス。ついでにせっかくだからオレの事意識してくれたら嬉しいっス」 図々しくもきらきらとした表情で、黄瀬はそう言い切った。 その声は自信とプライドに満ちて、嘘ではなく本気だということは伝わってきた。 「負けず嫌いか・・・」 ぽつりと呟いた声は黄瀬には届かなかった。 「勝手な事を言うな。意識などしてやらないのだよ」 精一杯の強がりだったのかもしれない。 意識をしたのは、どちらが先だったのか。 きらきらと光る金色の髪が綺麗だと思った、あの時。 緑間の中に黄瀬の存在が認識されたのだ。 意識したというのなら、その日からずっとだ。 「えー、オレ、ちょっと今、勝負賭けたんスけど、スルーって事っスか?」 「帰るのだよ」 「緑間っち、ねえ、聞いて欲しいんスけど?オレ、マジなんスよ?」 必死に喚く黄瀬を置いて歩き出す。 「うるさいのだよ」 どちらが先に意識したのか、それはさほど重要な事ではない。 好きか嫌いかの二択ならば、前者である事は間違いはない。 ただ、種類が違う。 あえて考えないようにしていた事を目の前に突きつけられてしまった。 答えは求められていない。 いつか、必要になるだろうけれど、それは、今ではない。 緑間は納得できる理由を探して、見つけて、一旦落ち着く事に成功した。 「緑間っち〜ぃ」 「情けない声を出すな」 「また会ってくれるんスよね」 「時間があれば」 「今は、それでいいっス」 嬉しそうに笑う黄瀬に嘘はなかった。 そして、そんな黄瀬が嫌いじゃないと思う緑間の気持ちも嘘ではなかった。 終わり |
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2012/06/13 |
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黄→緑。 |
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