買い物

 
     
 


sideM

穏やかな陽気は、もうすぐ春の訪れを感じさせる。
まだ防寒具は手放せないけれど、あたたかな陽の下を歩く人々の足取りは軽い。
「なあ、真ちゃん、この店はどうよ?」
部活の帰り道、少し遠回りをして歩く商店街に飛びぬけて背の高い男子高校生がやってくるのも随分と見慣れた風景になりつつある。
店先のワゴンに無造作に積まれたカラフルなぬいぐるみにはセール品との赤い文字がでかでかと貼られていた。
フリルと花で装飾された店頭に躊躇うことなく中に入っていく後ろ姿は、何度見ても違和感しかなくおもしろくてしかたがないと、高尾は笑った。
195センチという身長は、そのファンシーな店を利用する女の子たちからしてみれば、ただの巨人でしかない。
ざわめく店内に一歩遅れて入れば、店員と客の視線を一斉に集めていることを全く気にせずに真剣な顔で物色している緑間に再び笑う。
妹の買い物に付き合うことも多い高尾でさえも妹の付き添いでもなく、こういった店に入るには勇気が必要だった。
(最近は、もう、どうでもよくなったけど)
別に一緒に来いと強要されたことはない。
おもしろいからついてきているだけだ。
緑間がふと動きを止めたので、高尾は後ろから覗き込む。
その手には鮮やかな黄色のうさぎがあった。
「ぶはっ、黄瀬にそっくり…」
睫毛のある黒いつぶらな瞳がウィンクをしているそのうさぎを一目見るなり、その人を思い出して、笑う。
(緑間といると、ほんと、飽きねえな)
笑いながら緑間の横顔を盗み見ても表情ひとつ変えていない。
思い出さないはずがないのに。
「買うの?」
「買わないのだよ」
明日のラッキーアイテムは残念ながら、ピンクのくまのぬいぐるみなのである。
黄色のうさぎの出番はない。
緑間はそのうさぎの隣りの棚で、ピンク色をしたどうにもかわいいとは言いがたい顔のくまを見つけて、レジへと向かった。
土曜日の午後ということもあり、店内は女の子たちであふれているというのに、緑間の行く先には誰もいない。
(怖くないけど、怖いね)
高尾はレジ前の緑間に声を掛けて先に店を出た。



sideK

「黄瀬君は友達がいないんですか?」
黒子は奢って貰ったバニラシェイクを飲みながら、腕時計を確認した。
「黒子っち、直球すぎるっスよ」
「いないんですね」
「いらないんスよ」
にこにこと悪びれのない笑顔を浮かべる黄瀬に黒子はそういえばそうだったと思う。
黄瀬は、部活の話、モデルの仕事の話と、特に重要でもなんでもない話をしては、トレーの上のフライドポテトを少しずつ食べていく。
視線が、ほんの一瞬だけ真剣な色を帯びて、すぐに消えた。
何を見たのかと窓の外に目を向ければ、ちょうど学ラン姿の生徒が数人通り過ぎていくところだった。
(会いたければ連絡をすればいいのに)
簡単なことが難しいというのは、自分にも思い当たる節があるので、そこは指摘しない。
それでも、どうでもいい話につき合わされるのは、そろそろ遠慮したかった。
「黄瀬君」
「はい」
真面目な声で呼びかければ、反射なのか冗談なのか、黄瀬はひどく真面目な顔で返事をした。
「ボクは帰ります。緑間君はもう練習を終えて、明日のラッキーアイテムを探しているそうですよ」
携帯電話の画面を確認しながら、黒子はメールの内容をそのまま伝えた。
「会いたくないんスよ」
「知りません」
「だって、会ったら、離したくなくなっちゃうんスもん」
「キモいです」
「ひっど」
「離さなければいいじゃないですか。緑間君なら離れたい時に勝手に離れますよ」
むしろ、離さないで欲しいと願っているのは緑間の方ではないのだろうかと思ったけれど、それは言わないでおく。
「黒子っち」
「なんですか?」
「かっこいい」
「どうも…」
きらきらと目を輝かせる黄瀬に溜息と共に返事をして、黒子は席を立った。


sideKM

夕暮れの商店街は、買い物客で賑わい始めていた。
夕食のおかずに悩みながら歩く女性たちを避けながら駅の方へと向かう。
「よぉ、黒子」
「高尾君、ここにいたんですか」
高尾が声を掛けると、黒子もぺこりと頭を下げる。
「見つかりましたか?」
「無事に」
にこにこと笑う高尾の隣りに緑間は立ち止まったままだ。
同じように黒子の側にいた黄瀬もその場で立ち尽くす。
「なんでいるんスか?」
「オマエこそ」
「もー、なんで、いるんスか」
黄瀬は両手で頭を抱えて天を仰ぐ。
「あれ、どうした?」
「緑間君不足ですよ、ただの」
「ああ、じゃあ、俺たちがいなくてもかまわないか」
「そうですね」
黒子と顔を見合わせて飽きれたように笑っているうちに、ざわざわと注目を集め始めた黄瀬が、緑間に勢いよく抱きついていた。
「………」
思わぬところで観衆の注目を浴びていることに気がついた緑間の容赦のない拳が黄瀬の頭を打ち抜くのは一瞬だった。
「いったあああああっ」
頭を抱え、その場にしゃがみ込んだ黄瀬を無視して、緑間はその場から逃げ出すように駆け出した。
「あ、真ちゃん」
「黄瀬君にまかせていいと思いますよ」
「そっか。そーだよな」
殴られた頭をさすりつつ、立ち上がった黄瀬が緑間を追いかけて行くのを見送って、黒子と高尾は何もなかったようにそっとその場から離れた。
その後、黄瀬が無事に緑間を捕まえられたのかは、わからなかった。



終わり



***

優音さんリクエストのシチュエーション
『 別の人とそれぞれ買い物にいくんだけど、結局好きな人のこと連想しちゃって会っちゃうようなそんなシチュ下さい』



 
     
 

2014-02-27 21:13:43