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帝光緑黒の日 |
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「まだ残っているのか?」 制服姿の緑間が明かりのついていた第四体育館を覗くと、ボールの弾む音が響いた。 「あ、すみません」 シュートを打ったはずのボールはバックボードに当たって、跳ね返ると緑間の足元まで転がってきた。 そのボールを追いかけて、黒子がやってくる。 「今日は一人か」 ここ最近、青峰が黒子と練習しているのを良く見かけた。 青峰が相手をしているという事は、この黒子もまたバスケが相当好きなのだろう。 「はい。青峰君は先に帰りました」 「もう下校時刻になる。オマエも早く帰るのだよ」 緑間は足元のボールを拾うとその場からシュートを放った。 ボールは高く弧を描き、真っ直ぐにゴールへと入っていく。 「すごい・・・」 ふ、と目線を下げると、黒子が緑間を見上げて目を輝かせていた。 「ぼんやりしていないで、ボールを片付けろ」 あまりにも純粋な羨望の眼差しを向けられて、緑間は戸惑った。 確かに長距離のシュートを初めて見る者達にどよめきを与えるくらいには、特別なプレーかもしれない。 しかしそれは、帝光中学の一軍では当たり前の事であり、驚かれるような事ではなくなっていた。 (三軍ならば、近くで見るのは初めてだったか・・・) その視線から逃れるように、緑間は転がっているボールを拾い、籠に入れた。 黒子も慌てたようにゴール下にあったボールを拾いに行く。 (すごい事ではない) そう言えなかったのは、黒子のシュート練習を何度か見かけた事があるからだ。 小柄で、バスケセンスもない。 それでも。 辞めずに、必死で練習を続けている。 「どうしたらそんなシュートが打てるんですか?」 ボール籠を用具室に片付け、扉を閉める。 「練習を続けているからとしか言えないのだよ」 何故と問われても特別な事は何もない。 ただ、人事を尽くしているだけである。 人事を尽くすとは、人間として出来るかぎりの事をするという事だ。 出来る限りの練習をする。 それしか他にない。 「練習をしたら、打てるようになりますか?」 「人には向き、不向きがある。黒子はパワーが足りないから、ロングシュートよりまずはレイアップが確実に入るように練習した方がいいのだよ」 「そうですよね。練習します」 ぐっと両手で拳を握った黒子の目は真っ直ぐ前を向いていた。 (なるほど・・・な) 青峰が黒子の相手をしている理由が少しわかったような気がした。 負けず嫌いで、バスケが好き。 それだけで十分だった。 「早く着替えて帰るのだよ」 緑間に言われて、黒子ははいと返事をすると部室に向かって走って行った。 その小柄な背中を見送って、緑間は玄関の方へ歩き出した。 同じチームでプレイする日が来るのかどうか。 緑間には判断しかねた。 (・・・ダメだとは思わないが) 不思議と黒子の一軍への昇格の可能性を否定はできなかった。 特別な何か。 それは、誰にでも与えられたひとつの光だ。 (あるのかもしれないし、ないのかもしれない) 光を見出すのは、自分自身でもあり、他人でもある。 ゼロではない。 黒子の真っ直ぐ前を見据えた強い目を思い出し、緑間は小さく息を吐いた。 強さを保つ者だけが生き残れる場所に、その瞳は相応しい。 (あの目は苦手なのだよ) 緑間はテーピングをした指で眼鏡を押し上げ、背筋を伸ばした。 それは、黒子が一軍にやってくる少し前の話。 終わり |
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2012/07/15 |
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帝光中学緑黒の日。 |
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