キス

 
     
 


「触らないでください」

珍しく乱暴にその手を叩き落されて怒りよりも先に驚いたせいで、何もできなかった。
緑間は小さく頭を下げて、荷物を肩にかけると、部室を出ていこうとする。
このままではダメだと、思考より先に身体が動いた。
緑間の腕を掴んで、引き留める。
緑間は背中を向けたまま、「放してください」とだけ言った。

「嫌だ」
「触らないでくださいと、オレは言いました」
「聞こえた」
「だったら、どうして…」

手を放してくれないのですか?と最後は消え入りそうなくらい小さな声で言う。
大きな体躯に見合わないそれが、かわいいと思うのだから、かなり末期だ。

「じゃあ、お前はどうして俺に触られたくないんだ?」

遅い時間まで居残って練習をして、下校時刻間際で慌てて着替えを終えた。
帰るぞ、と、いつものように気軽に肩に手をのせた。
それだけだった。

「心臓が、痛いので」
「は?」
「貴方に触れられた場所からじわじわと熱くなって、心臓が痛くなるので、触られたくないんです」

背を向けたまま、緑間が言う。
お前は今、どんな顔してんの?

「じゃ、もっと触ってやっから、こっち向けよ」

肩を掴んで、無理矢理身体を反転させれば、目元が紅く染まっている。

(バカはどっちだ)

口元を緩めて、それから、唇を重ねた。

(もっと苦しめばいい)

そう思ったら、止まらなくなりそうで、緑間がずるずるとその場に座り込むまで、その口内を貪った。



終わり



 
     
 

2013/08/20