誘って惑わして

 
     
 


「ちょっと、まってください」

そう言って、伸ばした先の手首を掴まれる。
目の下がほんのり赤色に染まるから、その動揺が見て取れるのが嬉しい。

(表情はそんなにかわんねぇのに)

手の動きを封じられては仕方がないので、首の付け根に甘く噛み付いた。

「宮地さんっ」

歯形を舌先でなぞれば、ようやく肩が震える。
手が使えないのだからと、そのまま鎖骨を辿ると掴んだ手の力が抜けていく。

「百年はえーんだよ」
「や、やめ、…っ」

その口を塞いで、自由になった手で当初の予定通りTシャツの上から背中を撫でていく。
緑間の足の間に宮地は自分の足を割り入れ、膝で股間をゆるく押し潰した。
力が抜け始めていた緑間の腰が跳ねるように震え、無意識に逃げようとするのを引き寄せた。
密着した身体がじわりと熱を持つ。
その形をほとんど覚えてしまったほどに口内を余すことなく舌で弄んだ。
息苦しさと股間の刺激とで、緑間の身体からどんどん力が抜けていく。
その瞬間に自分の自由にできるものとして、姿を変え、二人の間にある溝が埋まる。
先輩と後輩とか尊敬とか畏怖とか羨望とか消えないものが、見えなくなるのだ。
それが、早く、見たくて、宮地は性急にことをすすめてしまう。

(もっと優しくしたい)

そう、思っているのだけれど、逸る身体は心と連動してはくれない。

「み、やじさ、ん…」

呼吸を乱し、力の抜けた身体がずるずると崩れ落ちていく。
そのまま床に押し倒して、宮地はべったりと身体を重ねた。

「お、もい…んですけど」

震える声で、それでも押しのけようとしないのは、緑間の優しさなのか、甘さなのかはわからない。

「重くしてんだ。当たり前だろ」
「何をしてるんですか?」
「お前の心臓の音を聞いてる」

耳をあてて、聞こえるその鼓動は速い。

「ちゃんと、生きてますよ」
「知ってる」

緑間の手がそっと宮地の後頭部を撫でる。

「宮地さん」

宮地は緑間の声が自分の名前を呼ぶのが好きだった。
目を閉じて心臓の音と緑間の声に耳を澄ます。

「生殺しですか?」
「上手にオネダリできたら考えてもいい」
「誘ったのは宮地さんですよね?」
「我慢できねえの?」
「できません」

珍しく直球な答えが返ってくるから、宮地は我慢できずに笑った。

「本気で笑わないでください。くすぐったいです」

自分から引き剥がそうと緑間が宮地の肩に手をかける。
そうはさせないと、寝そべったままぎゅうっとその身体を抱きしめた。

「…宮地さん」

呆れと諦めと溜息の混じった声。

「緑間」
「はい」

顔を上げて、目を合わせる。
ちゅっと音を立ててその唇を吸って、緑間から眼鏡を取り上げた。



終わり



 
     
 

2013/09/15