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beautiful |
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三年と一年では同じ学校内でもめったに会うことはない。 体育館に向かうとき、理科室に向かうとき、それでも出会うことなんて少ない。 渡り廊下の窓から、ふと外を眺めれば、体育の授業でグラウンドへと出ていく生徒の姿があった。 学校指定の体操着の集団の中にひと際目立つ緑色の髪。 背の高さもそうだけれど、物差しでも入っているんじゃないかと思うような、真っ直ぐな背筋ですぐにわかる。 その周りをだるそうに歩くのが高尾だ。 落ち着きないから、すぐに振り返って、こちらを見つける。 緑間の背中を叩いて、こちらを指差して笑った。 ぶんぶんと手を振る無邪気さの隣りで、まぶしそうに目を細める。 (バカだな) 自分への嘲笑。 見下ろして、見上げられて、それでも満足しないこの距離感に背筋がぞっとする。 後輩二人を無視して、理科室へと移動しながら、2年という学年の差を思い知った。 *** 夏の日差しが照りつけるグラウンドへ向かう途中、だるいだのあついだのだらだらとうるさい高尾が、ふと足を止めた。 どうしたのかと思う間もなく、真ちゃん真ちゃん、あそこに宮地サンがいる、と笑った。 振り返って見上げれば、2階の渡り廊下に人影があるようだったが、自分の視力では人の形を認識するのに精一杯で、それが宮地さんなのかどうかまでは確かめられなかった。 (部活以外で会うのは珍しいのだよ) そう思えば、ひどく残念な気がした。 目を凝らしてみてもその影が宮地さんであることはわからない。 高尾がぶんぶんと手を振っていたけれど、人影はそっと姿を消した。 「宮地サン、化学の授業かな。あの先には理科室しかねーよな」 少し機嫌を直した高尾の足取りが軽くなる。 暑さもだるさも変わらないというのに、なんなのか。 「真ちゃん?」 「なんでもないのだよ」 「すぐ会えるっしょ?」 「なんのことだ」 「宮地サン」 人の心を悟ったような、にやにやと笑う顔が気に入らなくて、べしっとその後頭部を平手で叩いて、先に行く。 「ってえよ。照れんなって」 追いかけてくる高尾を無視して、溜息をひとつ吐いた。 *** 「よお」 放課後、部室に向かう途中で、緑間は宮地と会った。 これくらい近づけば、いやでも顔が見える。 遠くにいても見えたらいいのにと、少しだけ思う。 ぺこりと頭を下げれば、暑いな、と言う。 なんと答えていいのかわからずに、緑間は沈黙した。 「体育、何したんだ?」 「サッカーです」 「サッカー?お前できんの?」 「人並みに」 「マジで?」 なぜか並んで歩き出してしまい、緑間は落ち着かなかった。 おかしそうに笑う宮地の飴色の髪が揺れるのを見ながら、抱えた正体不明の感情を持て余す。 「緑間?」 ふいに目を合わせてくる宮地から、反射的に一歩分だけ離れる。 「なんだよ」 「なんでもありません」 「じゃあ、逃げんな」 「逃げてません」 「嘘つけ、なんだ、その一歩。見えてんだよ。刺すぞ」 そう言われて、さらにもう一歩離れる。 「近いので」 「近くてなにがわりいの?」 「悪くはありません」 「なんなんだよ」 宮地が立ち止まるので、仕方なく緑間も足を止めた。 真正面から向かい合えば、宮地の真っ直ぐな視線が両目を捉える。 亜麻色の瞳が瞬きを繰り返すのを見詰めた緑間の心臓が跳ねた。 (ああ、困ったのだよ) 高尾が笑った理由も見えなくていやだった理由もわかってしまった。 「なんでもありません」 それでも、伝えることはできなくて、ただ、表情を変えないまま答える。 「……、今じゃなくていいか」 覗き込むように近づいた顔が、あと少しで触れてしまいそうだった。 「お前の目、キレイだよな」 そう言って笑う貴方がキレイだとは言えずに、そんなことはありませんと、顔を逸らすので精一杯だった。 終わり |
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2013/06/21 |
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