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確認作業 |
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「なぁ」 背中に声をかける。 部室のロッカーの位置がそうなっているから仕方がない。 振り返ったら、背中しかなかった。 「はい」 Tシャツを脱いでいる途中だったというのに、律儀にもちゃんと振り返って返事をする。 真面目なのか、素直なのか、よくわからない。 成長途中の薄い身体。 それでも、程良く付いた筋肉は、どこからどうみても、バスケをする男の身体で、特別なことはない。 沈黙が数秒。 緑間は、宮地からの言葉をおとなしく待っていた。 「あんまんと肉まんどっちが好きだ?」 「あんまんです」 即答する緑間に、やっぱりなと笑って、宮地は緑間に背を向けた。 話題はなんでも良かった。 自分を見る緑間が見たかった。 ただそれだけだ。 「宮地さん」 「なんだよ」 背を向けたまま返事をする。 Tシャツを脱いで、制服のシャツに袖をとおせば、しばらくの沈黙が続く。 「…コンビニ、寄って帰りますか?」 「肉まんもあんまんもまだ並んでねえよ」 少し、テンポのズレた会話が、可笑しい。 宮地の答えに満足したのか、納得したのか、緑間からそれ以上の追及はなかった。 制服に着替え、脱いだTシャツをカバンにつっこんで、それから、緑間を確認すれば、だいたい同じように身支度を終えていた。 「なぁ」 「はい」 近付いて、見つめ合って、それから、キスをして。 挨拶のような、特別のような、それは、決められたことのようだった。 触れ合うことで、確認をする。 (何を?) 顔を近付けても緑間は逃げなくなった。 身体を抱き締めると抱き返してくるようになった。 人と触れ合うことを無意識に嫌悪していた人間とは思えない。 少しずつ、少しずつ、慣らしていく過程が、宮地を楽しませた。 「なにが、おかしいんですか?」 「なんで?」 「ずっと、笑っているので」 不満そうに言う緑間の口をもう一度塞いで、もっといろんな姿が見たいと望む。 この手の内にある間は、優しくできる。 抱き締めて重なる体温も薄い身体の線も心臓の音も全て自分のものだと実感できるから、愛しい。 「緑間」 呼べば、視線が向けられる。 (お前はどうして俺なんだろうな?) 同等の感情はそこにはない。 お互いの一方的な想いだけがお互いに纏わりついている。 そのうち、ぐるぐる巻きになって、動けなくなってしまうだろう。 「お前、面倒くさくなってんだろ?」 「何がですか?」 「俺のこと」 「そんなことはありません」 即答。 あんまんと同じレベルで答えているのだろうか。 「宮地さんは、そのままで、いいと思います」 ぎゅうっと抱き締めてくる緑間が、肩に額をのせてくるから、首筋に髪の毛があたってくすぐったいと、宮地は肩を竦めた。 「宮地さんは、宮地さんです」 抑揚のない声だけれど、どこか優しいから心地好い。 「緑間」 「はい」 「お前、俺のこと好き過ぎ」 「嫌いになるよりいいじゃないですか」 緑間と同じ強さで抱き締め返して、宮地は笑った。 終わり |
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2013/10/17 |
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