歩く、隣り。

 
     
 


吐く息が白くなる頃。
マフラーと手袋で防寒を始める頃。
毎日を授業とバスケに捧げている頃。
後ろを歩く人の視線が、背中に突き刺さるのを感じながら、振り返らずに歩く、夜道で見上げた空は、満月が眩しかった。

「なぁ」

誰ともなく呼びかける。
この道を歩いているのは、自分と一メートルほど後ろの後輩一人だけだ。

「はい」

返事がある。
ここに、いるのは、二人だけだからだ。

「なんで、後ろ歩いてんの?」
「隣りを歩く理由がないからです」
「理由とか必要なのかよ」
「友人ではありませんので」

生真面目な男は、テンプレートのような答えを返す。

「じゃあ、隣りを歩けよ。先輩命令だ」

そう言えば、一歩、二歩、三歩で、追いついて、隣りに並んだ。
急に冷たい風がさえぎられて、急にあったかくなったように思えた。
それは、緑間の体温のせいかもしれないし、自分の熱だったかもしれない。
会話は特にない。
話すこともないし、話したいこともない。
それなのに、何故か並んで歩いている。
ふと、隣りを向くと緑間と目が合った。
タイミングがぴったりとか、そんな問題じゃない。

「なんだよ」
「なんでもありません」
「ウソついてんじゃねえぞ、轢くぞ」
「ウソはついてません」
「なんで見てんだよ」

ぷいっと緑間から顔を逸らして、歩く。
緑間は小さな溜息をひとつ。

「貴方の横顔に見惚れていました」

生真面目な声でポツリと答える。
そうだった。
ウソが嫌いだと何度か聞いた。
だからといって、正直すぎるのもどうかと思うけれど、その言葉に対する信用度は高くなるのは、悪くない。

「そうかよ」

二つも年上の。
しかも男の。
横顔の、どこに見惚れる要素があるのか問いただしてみたかったが、淡々と、無表情で、その理由を語られるのを聞く気にはなれなかった。

「はい」
「横顔だったらお前の方がよっぽどキレイじゃねえか」

なんでもなかった。
話の流れだ。
初めて見たときに、見惚れたのだ。
美しいフォーム、美しいシュート、その横顔さえも美しかったという記憶がどんどん美化されていく。
気づいたら、隣りにいるはずの緑間がいない。
振り返れば、三メートル程後ろにいた。
どうしたのかと、戻ってみれば、薄暗い外灯の下でもはっきりとわかるくらいに、顔も首筋も耳までも真っ赤に染まっていた。

「……、宮地さん、不意打ちは卑怯なのだよ」
「うるせえ。お前は、いつも不意打ちしかしねえじゃねえか」

べしっと照れ隠しも含めてその額を叩けば、瞬きを何度か繰り返す。

「暴力反対なのだよ」
「立ち止まってねえで、歩け」

まだ文句を言いたげな視線を無視して、歩き出す。
緑間が隣りに並ぶ。
そっと伺い見れば、まだ赤さが皮膚に残っていた。

「笑わないでください」
「お前、俺のこと好きすぎだろ」
「好きですから」

この先に自動販売機があるのを知っている。
おしるこはあたたか〜いに変わっていたのも確認済みだ。

(それくらい、おごってやってもいい)

満月は空から煌々と足元を照らしていた。



終わり



 
     
 

2013/11/02

 
     
 

※2013年(H25年)最後の宮緑でした。