175Qネタバレ

 
     
 


重い灰色の雲が空を覆った夕刻。
薄暗い教室の片隅で、二人の影は向かい合ったまま机上の盤面を見つめていた。

「2二の銀」

赤司は持ち駒を玉の前に指した。パチリと静かに音が響く。完全に詰みだ。
緑間が諦めた様に小さな溜息を吐いた。
眉間には深い皺が寄っている。
かなり良いところまで拮抗した勝負が続いていたけれど、読み勝ったのは赤司だ。

「投了・・・なのだよ」

降参の合図を送る。
緑間は悔しさを隠せないまま、駒を片付けた。

「3一金を無駄にしたな」
「わかっているのだよ」

脳内の盤面で棋譜をなぞる。
打ち損じた場所は、簡単なミスだ。
赤司はそこを見逃さない。
いつもそうだ。
先を読み、微かな機会を狙う。
『敗北を知らない』と言った。
いつだって、勝ち続けてきた人間の不遜で傲慢な発言だ。
けれど、それが、良く似合っている。
そんな赤司の下では、同じチームにいるプレイヤーは全て駒でしかない。
勝つ為であれば、その立場に甘んじるのも仕方ないと思っていた。

(敗北したからこそ、わかることがある)

それが、どれだけ異常かということを。
バスケでは同じチームであり、対戦することはない。
けれど、将棋では常に敗北し続けた。
勝てないのではないと信じて対局していた。
それは、ずっと変わらなかった。

(青峰に挑む黄瀬に、勝てないと言わなかったのは、決して勝てないわけではないと信じていたからだ)

人間は変化する生き物だ。
環境に対応し、慣れていく。

(人事を尽くし天命をまてば、運命は自ずと開かれる)

自らの力で引き寄せて打開する。
人を見て、己を振り返る。
敗北を知らない赤司との対戦は、夢にまで見た。
いつか、彼に勝つのは自分でありたいと、願い、チャンスはやってきた。
恐れるものはない。
敗北は、人間を成長させる。
悔しさ、痛さ、虚しさ。
今までの努力の積み重ねを一瞬にして消滅させるのは、敗北のみだ。
人は傷つき、飢える。
それは、果てしない強さへの渇望へと変わる。

(負けはしない・・・)

目を閉じ、そして、見開く。
手にしたボールは真っ直ぐに、ゴールへと吸い込まれていった。
一年近く見ていない赤司は、間違いなく強くなっている。
それは、自分も同じだ。
目指すは頂点のみ。
その情熱は、恋情にも似ている。
求め、受け入れ、そして、果てる。
両手には収まらないほどの感情が零れ落ちた。
始まってもいないことの終わりを読もうとするのは、悪い癖だ。
欲しいものは、勝利。
望むものは、赤司の敗北。

(バスケは将棋とは違うのだよ)

緑間は、ゴールへとボールを放った。

(一人でプレーをするわけではない)

全ては勝つ為に。

「オマエに敗北を教えるのはオレなのだよ、赤司」

ボールは、高く弧を描き、ゴールを直撃した。



終わり



 
     
 

2012/07/30

 
     
 

赤司と緑間。
じゃんぷ本誌を読んで、
勢いで書いたその2。
赤司に勝ちたい緑間の、
いろんな想いを考えた。
この人、ずっと赤司に勝つということ、
赤司に敗北を与えること、
そんなことを考えてバスケしてたんかな、と。
思う。