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189Qネタバレ |
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うん-めい【運命】 1 超自然的な力に支配されて、人の上に訪れるめぐりあわせ。 天命によって定められた人の運。 2 成り行き。将来。 今後どのようになるかということ。 占いを信じ、運命を信じ、そして、言う。 「まず最善の努力、そこから初めて運命に選ばれる資格を得るのだよ」 努力をすること。 そして、運命とは、選ばれるもの。 口癖のようだった。 人事を尽くして天命を待つ。 ばかのひとつおぼえのように、ただ、ひたすらに縋っていたようにも見えた。 努力をすることをよく説教していた。 思い返せば、それを直接言われたことはなかったと知る。 いつも『誰か』に言っているのを聞いていただけだった。 (俺には緑間の信じる運命とかってやつを教える必要がなかっただけかよ・・・) すでに選ばれた者とでも思われていたのだろうか。 そうであれば、緑間も選ばれた者の一人じゃないか。 勝手に線を引くなと、今なら言えるのに。 運命に選ばれる資格。 選ばれたからこその勝利。 緑間は言わない。 言わないけれど、信じている。 そして、縋る。 黙々とシュート練習を続ける背中が言う。 『オレは自分が弱い事を認めたくないのだよ』 だから、最善の努力をするのだろう。 (バカだな) その背中を見詰めながら、そう思う。 強いのに。 運命に選ばれる資格がなかったのだと言い訳をさせたくはない。 (俺はお前ほど強いヤツを知らない) まっすぐにゴールだけを求める姿を眺めるのは嫌いじゃなかった。 だから、欲しかった。 ゴールしか見ない視線を自分のものにしたかった。 「なーあー、緑間ぁ」 放課後の教室で、プリントを広げた。 宿題の提出をサボりすぎたせいで、特別に出された課題だ。 これを提出しない限り、部活動参加が不可だという。 「運命って、なんだ?」 問1 以下の単語の意味を答えよ。 『運命』 緑間はずっと目の前に座っている。 課題が終わるのを見届ける役目を言いつけられて、機嫌が悪い。 返事のかわりに国語辞典を目の前に突きつけられた。 しかたなく、調べる。 運命。 『超自然的な力に支配されて、人の上に訪れるめぐりあわせ』 めぐりあわせ? 『偶然にそうなること』 緑間が信じている運命とは、人の力ではどうにもならないことなのかと、目の前のすました横顔を見た。 努力をすれば、運が味方について、勝てると? 信じているのか? そんな、もの、に、なんで、こだわるんだ。 お前は十分強いのに。 (自分の努力と強さで掴んだ勝利は、運命なんかじゃねえ) ふと、緑間がこちらを向いた。 「運命とは、人が自ら選択できるものではないのだよ」 深緑色の瞳が真っ直ぐに捉える。 (知ってんのか) 知ってて、それでも、信じるのか。 いつか選ばれると信じているのか。 もう、選ばれているとは、思わないのか。 真面目で真っ直ぐで弱いくせに強くて、そして、なんて、愛しい。 「お前って、意外とバカだよな」 「バカに言われたくはないのだよ」 「なあ、これ終わったらキスしろよ」 「だから、バカだというのだよ」 「やる気くれって言ってんの」 「したければしろ」 「ちげーよ。して欲しいんだよ」 「断る」 「じゃあ、もう、やめた」 「青峰・・・」 シャーペンを投げ出した俺に緑間は溜息をひとつ。 それから鉄拳制裁を覚悟したが、拳骨は振り下ろされなかった。 「オマエが終わらせないとオレが練習できないのだよ」 表情は何一つ変わらない。 左手で殴られるより、痛いかもしれない。 (ほんと、ずるいよな) 何もしないくせに、威力だけは絶大だ。 しかたなく、俺はシャーペンを持ち直した。 (こーゆーの、なんていうんだっけ。惚れた弱み?) わら半紙一枚。 30問の解答欄を全部うめた時には、もう部活動の時間は終わっていた。 「やれば、できるのだな」 緑間が珍しく感心したように呟いた。 両手を投げ出して、机の上に突っ伏した俺の額にふわりと柔らかな何かが触れる。 驚いて起き上がると緑間はもう席を立っていた。 「キスが欲しかったのだろう?」 笑うこともなく、テーピングされた指で眼鏡を押し上げる。 そして、俺の汚い字で埋め尽くされたプリントを手にして、教室を出て行った。 担当教諭に提出するのだろう。 本当にクソが付くほど真面目で腹が立つ。 (断るっていったじゃねえかよ) もう一度机に突っ伏して、目を閉じた。 『人が自ら選択のできない、偶然にそうなること』 (そんなものに振り回されたくはねえ・・・) 信じることは否定しない。 (だけど、緑間は信じてる) 見えないものに縋る弱さごと、その背中を抱き締めたかった。 誰もお前のせいにしないのに、お前は自分の責任にしてしまう。 だから、毎朝の占いに、そして運命に、頼ろうとする。 その弱さごと全部、自分のものにしたかった。 緑間は、誰よりも弱くて、強いと、教えたかった。 「なぁ・・・、運命ってもん信じるか?」 そう言った直後のさつきの顔は、酷かった。 ガラにもないことを言い出したのは、自覚している。 口にして、初めて、緑色の瞳を思い出した。 (そうか、運命って、こーゆーことか) 少しだけ、わかったような気がした。 終わり |
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2012/11/12 |
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青緑。 |
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