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夏祭り |
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| ※睦月さんよりリクエスト | ||
夏の始まりは、いつもより遅い時間でも外は明るく、歩くだけで汗ばむほどの気温が残る。 そんな晴れた日の夕方、学校からの帰り道の途中で、笛と太鼓の音が聞こえた。 「祭りっスかね?ちょっと行ってみないっスか?」 瞬時にテンションの上がった黄瀬は、緑間の腕を引いて、いつもと違う路地に入る。 住宅の角を曲がると、祭と文字の入った提灯と色とりどりののぼりが紅い鳥居へと導くように並んでいた。 「こんなところに神社なんてあったんスね」 黄瀬は緑間の腕から手へと握り直して、人ごみの方へと進んでいく。 「黄瀬」 その手を放そうと緑間が手を振ってきたけれど、逆にもっと強く力を込めて、振りほどけないようにする。 その強引さに逆らうことを諦めたのか、緑間がそっと握り返してきた。 黄瀬は小さく笑って、その手を繋いだまま鳥居をくぐり、石段を登った。 緑間も仕方なく周りの目を少し気にしながらも黄瀬についていく。 石段を登りきると参道の両側には屋台が並び、浴衣姿の子供や女性が楽しそうに笑っている。 「緑間っち、オレ焼きそば食べたいっス」 黄色地に赤い文字で大きく「やきそば」と書かれた屋台へと向かう黄瀬を緑間が引き止めた。 「お参りが先なのだよ」 「え?あ、そうっスね」 緑間の右手をぎゅっと繋ぎ直して、黄瀬はすれ違う人を避けながら、まっすぐ境内へと向かった。 緑間も同じように人を躱しながら、黄瀬より一歩後ろについていく。 暑さでじんわりと汗ばんでいく手のひらが熱い。 笛と太鼓のお囃子が聞こえる社殿の前に辿り着くと、そこでようやく黄瀬は緑間の手を放した。 ポケットから小銭を取り出して賽銭箱に投げ、かしわでを打つ。 賑やかな祭りの喧騒が一瞬だけ聞こえなくなる。 (緑間っちとこれからも一緒にいられますように) 幼い願い事かもしれないけれど、想いは本気だった。 隣りに並ぶ緑間を横目で見ると、目を閉じて何かを祈っている。 真っ直ぐに伸びた背筋とそのきれいな横顔に見惚れて、黄瀬はもう一度目を閉じて両手を合わせた。 お参りを済ませた緑間の手を再び握って参道へと戻ろうとした途端、繋いだ手を引き寄せられた。 「黄瀬、この手をはなすのだよ」 不機嫌そうな表情に見えるけれど、照れているのがわかる。 「はぐれたら嫌なんスよ」 「はぐれない」 「そんなのわかんないじゃないっスか。こんだけ人が多かったら誰も見てないっスよ」 黄瀬は握った手を放さずに笑う。 自分の強引なわがままが許される範囲を知っている。 「ここにいる間だけでいいっスから」 繋いだ手のひらが熱い。 夏の暑さと人混みの熱気が笛と太鼓の音を混ざり合い、祭りの空気を盛り上げていく。 子供たちの歓声が遠くから響いた。 「カキ氷、おごるっスよ」 「ここにいる間だけなのだよ」 「わかってるっス」 握り返してきた緑間の手を引いて、黄瀬は焼きそばの屋台へと向かった。 終わり |
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2012/07/22 |
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ついったーでそっと募集したリクエスト。 |
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