恋のはじまりのはじまり

 
  ※かずのこさんよりリクエスト  
     
 


陽の光に反射して、きらきらとする髪がきれいだと思ったのは、夕暮れの町を一緒に歩いていた時だった。

「青峰っちの強さってなんなんスかね」

黄瀬は練習後居残っては、青峰に1on1を挑み続けている。
それは、自分の体力の限界に挑戦しているようにも見えた。
ゴールを独占してしまうシュート練習を緑間が他の部員の迷惑にならないよう、通常練習の後に行うようになってもう一年が過ぎていた。
集中すると他の音が一切入らなくなる為、用具室と体育館の鍵はいつも緑間に預けられ、下校時刻に合わせて鍵をかけるのが練習とセットになってからは半年になる。
他を気にせず、心置きなくシュート練習ができるとあって、多少の労力を必要とする鍵当番を快く引き受けていた。
二年生に進級して約一ヶ月。
入部して二週間で「黄瀬涼太」が一軍にスピード昇格することを聞いた。
入部するまで本格的にバスケットボールをしたことがないという。
見ただけでその動きをほぼ寸分たがわずに模倣する能力があり、その異常なまでの吸収力の早さは二週間という期間が証明している。
その「のみこみの早さ」をもってしてでも、青峰には全く歯が立たず、必死で食らいついたとしても敵うものではなかった。

「・・・自由、なバスケなのだよ」

鍵をかける為に体育館を確認して回るといつも床に倒れている黄瀬がいた。
緑間はそんな黄瀬にタオルと水を渡し、動けるようになるまで待つようになったのは、最近の事だ。
鍵をかけられないというだけでなく、青峰の強さを目の当たりにしても挫けずに挑み続ける黄瀬の負けん気の強さを認めたからでもある。
なんでもできてしまうが故に傲慢さの残る黄瀬に腹が立つ事も多々あるが、彼の持つ無限の可能性を期待してしまう。

(目の前の壁を乗り越えようとする力は負けない)

いつからか、約束を交わしたわけでもないけれど、緑間は黄瀬と時々一緒に帰るようになった。

「自由っスか?」
「青峰のプレーは型にはまっていないが故に誰もが予測のできない動きをするのだよ。それはオマエも毎日相手をしているのだからよくわかっているんじゃないのか」
「そうなんスけど・・・」

黄瀬が不満そうに唇を尖らせる。
横から風が吹いて、金色に輝く髪を揺らした。

「緑間っち?」

少し見とれていた事に気付いて、緑間は慌てて目を逸らす。

「なんか、あったんスか?」
「なにもないのだよ」

眼鏡を指先で抑えて、深呼吸をひとつ。

「緑間っちのロングシュートもできないんスよね」

黄瀬が両手でシュートを打つ真似をする。
目線の先には見えないゴールがある。

「簡単に真似されても困るのだよ」
「そうかもしれないんスけど。オレ、今までできなかったことがなかったんス。人の動きを見て、それと同じに体を動かせば同じことが簡単にできたんス。でもできてしまうから、誰も相手にしてくれなくなっちゃうんスよ。なにをやってもどんどんつまんなくなってきて。だから、今、苦しいけど楽しいんスよ」
「・・・それはよかったな」

緑間はそっと目を伏せて、頷いた。
それがどれだけ恵まれた人間の言い分であるのかと知ってはいたけれど、責める理由はない。
天賦の才を羨んだところでそれはただの妬みだ。
才能を無駄にするのであれば、批判もできるだろうが、今の黄瀬は『青峰に勝つ』事に必死になっている。

「緑間っちは楽しいっスか?」

無邪気な質問は時に残酷に切りつけてくる。
黄瀬のこの奔放な性格に思考を振り回されることにもだいぶ慣れてきたはずだったが、油断をしている時に限って大怪我を負う羽目になる。

(楽しくないと答えればどんな反応をするのだろうか)

ふと、そんな考えが思い浮かぶが、それがどれほどくだらない事か、緑間は良くわかっていた。
いつもと異なる何かを呼び起こすのは、いつも黄瀬の言葉からだった。

「それはオマエが気にすることではないのだよ」

悪びれのない笑顔と真っ直ぐな視線は鬱陶しくて、少し羨ましい。
自分にないものに惹かれるのは、自分にないものが輝いて見えるからなのか。
きらきらと光る髪と人懐こい笑顔、それから・・・。
この時、緑間の心の奥に生まれた新しい感情は、これから積み重ねていくことで、いつか形になるかもしれない灯火のひとつだった。



終わり



 
     
 

2012/07/22

 
     
 

ついったーでそっと募集したリクエスト。
黄緑で黄瀬を好きだと自覚する緑間。
緑間くんが黄瀬くんを好きだと自覚するのは、
とても時間がかかるような気がしたので、
好きになる感情の生まれたきっかけのような瞬間を、切り取りました。
帝光中学時代です。
リクエスト通りのイメージではなかったかもしれませんが、
こんな感じでお許しくださいませ。
リクエストありがとうございました。