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高黒の日 |
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時々、メールをする。 時々、待ち合わせをする。 話す内容は、バスケの事、最近読んだ本の事。 それから、お互いの学校の事。 高尾は10日ぶりに黒子とファーストフード店で待ち合わせた。 名目は借りていた本を返す為だけれど、会えるならなんでも良かった。 「え?数T、まだそんなとこやってんの?いいなぁ、ゆっくりで」 「もう終わってるんですか?今度テスト前に教えてもらえますね」 「はっ?ムリムリ。オレ、そんなに数学得意じゃねえもん」 「成績は悪くないって聞いてますよ」 「え?誰から・・・って、緑間か」 「いいえ、黄瀬くんです」 「そっち・・・かよ」 意外だけれど意外でもなんでもない名前が出てきて、高尾はテーブルに突っ伏した。 黒子と黄瀬の共通の話題に自分が混ざってしまっていることに少し驚いただけだ。 本当に油断も隙もない。 「僕が黄瀬くんに高尾くんのことを話してから、興味を持ってしまったみたいで」 「べつにかまわねえよ。だって、オレも黒子の話、緑間にしてるし」 「・・・何を聞いてるんです?」 ストローから口を離し、無表情だけれど少し強めの視線が真っ直ぐに飛んでくる。 怒っているわけではないというのに、その両目の持つ迫力に気圧された。 「何って、えーと、そんな、面白いことなんて聞いてねえよ?緑間も話そうとしねえし。だから、な。落ち着けって・・・」 「正直に言えばバニラシェイクひとつで許します」 「正直に、言ってるって。マジで!笑ったのなんか一日中Tシャツを裏表逆に着てたとか、そんなんだし」 「聞いてるじゃないですか」 「たいしたことじゃないっしょ?」 にこにこと笑ってみせれば、溜息が返ってくる。 「ほかに黒子のこと話せる相手いないから、許して」 「バニラシェイクひとつ」 「りょーかい」 拗ねたように唇をつぼめてシェイクのストローをくわえる姿が、妙にかわいらしく見えて、高尾は笑ったまま席を立った。 ご所望のバニラシェイクをひとつ購入して、席に戻ると黒子は高尾が返したばかりの本をぱらぱらとめくっている。 「それ、マジでおもしろかった」 「それはよかったです」 自然に笑うので、高尾は少し見惚れる。 表情に変化の少ない黒子の笑顔は、貴重な分、破壊力もあった。 (もっといろんな顔、見たいんだよなぁ) 笑わせる、怒らせる、拗ねらせる、それから、泣かす。 どれもこれも簡単にはいかないことばかりだ。 テーブルの上のトレーにバニラシェイクを置いて、高尾がイスに座ると、黒子は書店のカバーがかかった文庫本を二冊差し出してきた。 「これが読めたなら、きっとこっちもおもしろいと思います」 もう何度か繰り返しているけれど、黒子から渡される本の種類が尽きることはない。 本当に黒子は本を読むのが好きで、家にはたくさんの本があるのだろう。 高尾は礼を言いながら受け取って、忘れないうちにカバンに仕舞った。 また返す口実ができた。 また次も会える。 それが嬉しかった。 それに、黒子が貸してくれる本は、読みやすくて、おもしろいものばかりだ。 自分に合わせた本を選んでくれているのだと知れば、そこには本当の嬉しさしか残らない。 「なに笑ってるんです?」 「うれしいなーって思って」 「なにがです?」 「黒子がオレの為に本を選んでくれたこと」 「・・・それ、だけですか?」 「それだけだけど、大事だろ?」 「高尾くんは意外と天然ですよね」 「は?なにが?なんで?」 黒子の言葉の意図がわからずに高尾は思わず身を乗り出してしまったけれど、黒子はバニラシェイクに夢中で答えてはくれなかった。 「まぁ、黒子はそーゆーとこがいいんだけどね」 「本当にくじけませんね」 「次に会うまでに自分のどこが天然なのか探しとく」 「だから、そーゆーとこが天然なんですよ」 「え?」 「言い換えればかわいいということです」 「は?かわいいのは黒子だろ?」 「・・・そうなんですか?」 「よくわかんねーけど」 お互いに顔を見合わせて、笑う。 伝わっているのかいないのか。 だから、一緒にいるとおもしろい。 「今度さ、デートしようぜ」 「いいですけど」 「やった!いつになんのかわかんねーけど、約束な」 高尾は小指を黒子の前に差し出した。 「わかりました。休みが決まったら連絡します」 黒子が自分の小指を絡める。 ゆびきりげんまん、うそついたら、はりせんぼんのーます。 声には出さないけれど、二人の脳内には同じ歌が流れている。 小指を絡めたまま、目を合わせて、沈黙した。 その空気に耐え切れず、先に笑ったのは高尾で、それにつられるように黒子も笑った。 今はまだ子供じみた約束をすることが精一杯だった。 終わり |
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2012/10/11 |
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10月11日は高黒の日! |
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