短編1

 
     
 


「今吉さん」

べったりと背中に張り付くくらい後ろから抱き締められる。
狭い部屋のカーペットの上ではあったけれど、まるでシートベルトのついた座イスのようだ。

「最近甘えたやな」

手だけをそっとのばし、肩口に埋もれる頭を撫でた。
寮の狭い自室で、重ねた段ボール箱がいつもと違う景色をうつす。
来週には大学近くのマンションに引っ越す事が決まっている。
卒業式まで、1ヶ月もない。
慌ただしい毎日の中で、ほんの少しだけうまれる空いた時間を狙って、この人間座イスはやってくる。
邪魔ではあったが、害はないので、好きにさせていた。
コンコン。
ノック音の後、ドアが開いた。

「今吉・・・って、なんだそれ」

今吉の背中に張り付いて丸くなっている大柄な物体は、かろうじて人の姿をしているらしい。

「青峰」
「また来てたのか」

須佐は視線を今吉に移して苦笑いを浮かべた。
隣りの部屋の彼もまた、引越し作業に追われている。
引っ越し業者と引越し先の都合で、今吉よりも先に寮をでることが決まっていた。

「どした?」
「これ、返す」

ひょいと差し出されたハードカバーの本を受け取る。
なんだか、懐かしいタイトルだった。

「あー、これ、須佐んとこにあったんか」
「探してたのか」
「見当たらんなぁとは思っとった」

ぱらぱらとページをめくって、ぱたりと閉じる。
須佐が今吉の後ろへと視線を向けた。
彼が心配するのは、今吉のことばかりだ。
いつもそうだ。
それが居心地好くて、今吉も須佐に甘えていた。

「・・・甘やかすのも程々にしとけよ」
「せやなぁ」

忠告するのは、二人の為だろう。
閉じるドアを見送って、いつまでも優しい人なのだと、今吉は思った。

(別れるんがつろうなるもんなぁ)

背中の温もりが、愛しくて、手放せなくなる前に手放してしまいたい。
もう手遅れかもしれないけれど。

「青峰。泣いても笑っても甘えても怒っても、あと2週間や」

聞こえているのか、いないのか。
どちらでもよかった。
今吉は、須佐から返ってきた本をもう一度開き、読み始めた。



終わり



 
     
 

2012/11/27

 
     
 

青今の短編。
ウィンターカップが終わって、
やっと素直になった青峰くんが、
ずっと今吉さんに甘えてる。

 
     
 

  → 短編2