短編4

 
     
 


「さっぶいなぁ・・・」

ぎゅっと身を縮めて、今吉がそおっと青峰の後ろに隠れた。

「風よけにしてんじゃねえよ」

振り向けばぐるぐるに巻いたマフラーに顔の半分が埋もれている。
眼鏡だけが浮いて見えて、青峰は思わず笑ってしまった。

「ええやん。ワシよりおっきいんやから」
「それ、理由になってねえし」

学校からそう離れていないコンビニまで一緒に歩く。
近くに並べば、その身長差10センチは意外と遠い。
寒さに耐えるように猫背になっているせいで、今は20センチくらいの差があるのかもしれない。

「あんた、寒がりだったんだな」
「寒いのが嫌いなだけや」

そう言いながら、防寒具はマフラーだけなところがすでにおかしい。
コートくらい持っていなかったのかと聞けば、学校にしか用がないつもりやったから着てこんかったとマフラー越しのくぐもった声で答える。

「肉まん、買えんのかよ」
「ポケットに五百円玉あってん」

笑ったのか笑ってないのか。
眼鏡の奥に見える目だけではその表情はわからない。
一緒に歩いたりとか、こうして話したりとか。
今までできなかったことをひとつひとつ実現していくごとにひとつひとつ何かを失っていくような気がした。
赤信号で立ち止まる。
足元で枯葉が舞って、道路に飛んでいく。

「今吉さん」
「んー?」
「・・・・・・。やっぱなんでもねぇ」

両手をズボンのポケットに突っ込んだ。
行き場をなくして無意味にさまようくらいなら、隠しておけばいい。

「青峰」
「なんだよ」
「呼んだだけや」

信号が青に変わる。
周りには誰もいない。
本当は信号待ちなど真面目にしなくてもいいくらい、車も人もない。

「あんた、ほんと、ムカつく」
「さよか」

寒い寒いと言いながら歩き出そうとする今吉の腕を青峰は掴んだ。
その口がいつも惑わすから、塞いでしまえばいい。
マフラーを下に下げて、あらわれた唇を重ねる。
感情より先に動き出すのは、本能だ。
噛みつくように触れて、突き放す。

「・・・口より先に手が出るやっちゃな」
「うるせえ」

頬の熱さが耳にまで広がっているのがわかる。
まともに顔を見ることができず、青峰は体ごと今吉から逸らした。

「なんで、お前の方が赤くなってん。これ、照れるんやったらワシの方やろ」
「あんたこそなんでなんにも変わんねえんだよ」
「いや、びっくりしたで、びっくり」
「してねえんだよ、顔が」
「真っ赤んなってかわいらしいな」
「うるせえ」
「肉まん、食べようや」

笑って手を差し出してくるから、青峰はその手を握った。
今吉の見慣れたはずの笑顔が、どことなく嬉しそうに見えたのは、勘違いじゃなければいいと思った。



終わり



 
     
 

2012/11/27

 
     
 

好きと言えない青峰くん。
好きと言わない今吉さん。

 
     
 

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