liar

 
     
 


重い曇り空の下、風が冷たい。
緑色のマフラーがやけに浮かび上がって見えた。

「好きだと言いたかったのだよ」

静かな声がぼやけた。
ほら、やっぱり。
笑い飛ばしてやりたかったのに、一歩も動けなかった。
ここは、どこだ?
世界がぐにゃりとゆがんでいく。
必死に手を伸ばしたらそこに腕があったので、そのまま掴んだ。


***


「寝ぼけているのか?」

声が、聞き覚えのある声が、近くて遠いところで響いて、青峰は目を覚ました。
ぱちりと見開いた視線の先に緑色の髪が映る。
驚いて飛び跳ねるように上体を起こしたら、緑色の髪が揺れて、すぐ側に驚いた顔があった。
見渡すと学校の屋上で、目の前の緑間は制服姿だ。

「怖い夢でも見たのか?」

少し、笑ったように見えた。
そんな風に優しさを与える緑間の罪深さを本人は知らない。
青峰は緑間の腕を掴む指先に力を入れて、そのまま唇を重ねた。
触れただけのキスだったけれど、逃げなかった。
無表情で、冷たい瞳で、それでもキスだけは許す。
本当の本音は、どこにあるのか。
教えて欲しかった。

「油断も隙もないのだよ」

額をべしっと叩かれる。
怒ったような、そうでもないような、判断の難しい表情をして、緑間はぷいっと顔を逸らした。

「お前さ、ほんとに俺のこと好きだろ?」
「おめでたい頭だな。そんな夢でも見ていたのか?」
「ちげーよ。・・・いい夢だったかもしんねぇけど」
「いい加減に手を放せ」
「いやだって言ったら?」
「子供か」
「なぁ、俺のこと好きだって言えよ」

そうすれば、全て解決するだろう。
子供みたいなやりとりも大人になれない駆け引きも。
何もかも必要ではなくなるのだから。
同じことばかりを繰り返さずに済む。

「嘘はつけないのだよ」

容赦なく放たれる言葉は、見えないどこかを傷つけていく。

(お前のせいで、俺は傷だらけだ)

傷は癒えないまま、新しい傷ばかりが増える。

「嘘でいい。嘘でいいから、好きって言えよ」

掴んだ腕を引き寄せて、そのまま抱き締めた。
身長はほとんど変わらないというのに、間違いなく自分より細い。
この薄い身体をめちゃくちゃに暴いて、本当のことを言わせたい。

「青峰・・・」

耳元で呼ぶ声からは、感情は読めないままだ。
少しくらい、戸惑いを見せてくれればそれで満足できるかもしれないのに、それさえも許されないのか。

「緑間」

ぎゅうっと抱き締める腕に力を込める。
言葉で伝えるだけで足りないのなら、身体ごと渡してもかまわないというのに、きっと緑間は受け取りはしないのだろう。

「昼休みが、終わるのだよ」

ぽんぽんと、子供をあやすような優しさで背中を叩かれる。
嫌いならいっそ突き放してくれたらいいのにと、望む。
突き放したところで、諦めやしないことを緑間は知っているのだ。

「お前が好きだって言ったらはなす」
「それならば、仕方がない」

溜息ひとつ。
緑間が今までにない強引さで、立ち上がった。
さすがにそれは想定外だった青峰は、引きずられるように一緒に立ち上がってしまった。

「オマエが授業をサボるのは自由だが、巻き込まれるのは御免蒙るのだよ」

力任せに青峰の腕を引き剥がした緑間は、弁当箱の包みを拾って、そのまま屋上から去って行った。
本当にかわいさのかけらもない。
簡単にはなびかない、ほだされない、そんな緑間の強さにまで惹かれてしまう自分を止められないのだ。
何故とは考えない。
考え出したらきりがないからだ。
好きだから、好き。
それ以上でもそれ以下でもない。
青峰はその場に寝転がった。
青空が視界全部に広がって、眩しい。

(めんどくせえ・・・)

いっそ、同じくらい嫌いになれたら楽になるのだろうか。
そんな無理難題を思いついたところで、解決には至らない。
先ほど見た夢の続きが現実になればいいのにと、心の片隅で願う。
頬を撫でる冷たい風を忘れるように、青峰は目を閉じた。



終わり



 
     
 

2013/02/11

 
     
 

帝光中学時代。2年生。
青峰→緑間。
nappingの続きみたいな感じで。
ほんの少しだけ、近付いたような。
そうでないような。