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impulsive |
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遠くで、名前を呼ぶ懐かしい声がする。 「青峰、30分たったのだよ」 強くもなく、弱くもなく、淡々としているけれど、どこか優しい声。 (好きなんだよな、声も) 青峰の寝起きのぼんやりとした意識は、まだ半分夢の中にいた。 目を開けたら、隣りには久しぶりに会う顔がこちらを見ていた。 眼鏡越しの目、薄い唇、色白い肌の首筋。 全て欲しかったけれど、手に入らなかったものだ。 「青峰?寝ぼけているのか?」 緑間とはいつから話さなくなったのだろう。 最後の試合が終わってから、部活に行かなくなってから、練習をする必要がなくなってから。 校内で会う事も少なくなった。 緑間が欲しかったけれど、それ以上に何もかも嫌になっていた。 卒業したら、もうこんな風に会う事など無いと思っていた。 手に入らないならいらないと全てを放り捨てた。 特別な感情も言葉も。 (夢・・・とかだったらいーんだけどな) 現実は、もっと単純だ。 公園の前を歩いていたら、見覚えのある背中が見えた。 だから、声をかけた。 諦めたつもりはなかったが、結果的にそうなった。 だから、思い出した感情がある。 捨てたとばかり思っていたものは、直接触れる事で全てよみがえってきた。 このベンチが昼寝スポットだと言ったのは、ただの口実だ。 この辺りには初めて来たのだ。 行くあてもなくぶらぶらと時間を潰していた。 練習をしなくても勝ててしまう。 負けたくはないけれど、勝負がしたかった。 戦う相手が欲しかった。 それは、高校に入っただけでは何も変わらないままだ。 つまらない毎日が過ぎていく。 変化を渇望していたけれど、誰もいない。 相手がいないのだ。 持て余す感情を力をぶつける場所さえなかった。 久しぶりに会った緑間は変わっていなかった。 結局なんにも変らない。 それが、面白くないけれど、どこか安心もしていた。 変わることを望んでいたくせにと、自分を自分で嗤う。 離れがたいが、話す事もない。 タヌキ寝入りのつもりだったというのに、しっかり熟睡していた事にも気付く。 夜は時々うなされて、良く眠れない日も多い。 夢も見ずに眠れたのは、どれくらいぶりだろうか。 (こいつが側にいたら、眠れんのかよ・・・) ある意味、心より身体の方が正直すぎた。 「青峰、さすがにもう行かなければならないのだよ。起きたのなら、もう少ししゃんとし・・・」 青峰は緑間の薄い口唇に噛みつくようにキスをした。 言葉を聞くかわりに飲み込むように。 欲しかった。 ずっと。 角度を変えて、二度、三度、繰り返し口付けを交わす。 眼鏡がぶつかったけれど、気にしない。 押し返そうとする手を握りしめて、最後に深いキスをした。 抵抗をされなかった分、遠慮なく口内の奥の方まで貪った。 口唇を舐めとるように離れると、今まで見た事のない表情をした緑間がそこにいた。 「な、・・・に・・・」 「諦めたと思ってたのかよ」 青峰が口の端を歪めて笑う。 嬉しいと思ったのは、どれくらいぶりだろうか。 「今度は逃がさねえから」 握りしめた緑間の手首に口唇を落とす。 震えた指先にもキスをする。 「また会うって約束しろよ。NOは、なしだぜ」 緑間は深い溜息を吐いて、あいている方の手で眼鏡をそっと持ち上げた。 「仕方のないヤツだ」 握られた手を振りほどいて、緑間が立ち上がる。 「緑間」 青峰の呼ぶ声には振り返らずに、公園を出て行った。 真っ直ぐに伸びた背中はすぐに見えなくなった。 緑間のいなくなったベンチに寝転がる。 もう一度、眠れそうだと青峰はそのまま目を閉じた。 終わり |
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2012/06/15 |
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青峰→緑間。 |
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happen to meet ← 前の話っぽいもの |
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