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deny |
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そっと手を伸ばしたら、虫を追い払うような勢いで叩かれた。 「ってぇ、な!」 「気安く触るな」 放課後の教室で一人居残って日誌を書いていた緑間の前の席に青峰が座った。 とうに部活が始まっている時間であるにもかかわらず、緑間がまだ制服姿で居る事が珍しい。 「なんでだよ。警戒すんなよ」 「警戒したくもなるのだよ。まったく油断のならない」 日誌から視線をはずさずに、溜息だけが通り過ぎていく。 「いいじゃん、キスしたって」 「ダメだ」 「なんで!」 ばんっと机を手のひらで叩くと、日誌を書く手を止めて緑間が顔を上げた。 真っ直ぐに見詰め合っても緑間の心内は良く見えない。 「嫌いだから」 「嘘つくなよ。ほんとは好きなんだろ?正直に言えよ」 「その自信は一体どこからやってくるのだよ」 眉根を寄せて呆れたように呟いた緑間は、再び日誌の続きを書き始めた。 整った文字が空白を埋めていく。 「見てればわかんじゃん。緑間が俺のこと好きだって」 視線を感じる事は何度もあった。 振り返っても誰とも目が合わない。 それでも、背中に届く気配は緑間のものだと気付いていた。 「有り得ないな。起きたまま夢を見るのも大概にしろ」 「マジで。俺のこと好きだろ?」 巧妙に隠しているつもりだろうけれど、全ては隠し切れていない。 「・・・笑えない冗談なのだよ」 それでも、緑間は認めようとはせず、溢れ出ている強い想いをどうしても見せようとはしなかった。 そこまでして否定する理由が青峰には全くわからない。 自分の気持ちに嘘をつき続けるのは、きっと苦しいはずだ。 好きだと言えば、抱き締めてキスをして、二度と逃さないのに。 「なんでだよ。お前が俺のこと好きだって言えばいいだけじゃねえか」 「嫌いだと何度言わせれば気が済むのだよ」 「ぜってぇ、嘘だ」 「何故、そう思い込む」 日誌を閉じて、シャープペンをペンケースに片付けた緑間がもう一度青峰を見た。 深い緑色の瞳が青峰を捕らえて、瞬きを繰り返す。 感情を押し殺し、真実を消そうとする。 そのガラス玉のような瞳には何が見えているのだろう。 「お前、自分の目が俺を見てるってしらねえの?」 「見ているつもりはないが」 「無意識ならそれでもいい。そっちのほうがもっと本当の気持ちだろ」 「随分と都合の良い考え方をする」 ふ、と緑間の口元が微かに緩んだ。 久しぶりに見せた笑顔はほんの一瞬で、すぐに消えた。 「緑間」 青峰が名を呼ぶと同時に、ペンケースをかばんに入れて、緑間が席を立った。 「二度はないと言ったはずだ」 青峰とは目を合わせる事も無く、日誌を持って教室を出て行く。 伸ばした指先は空を掠めて、緑間には届かなかった。 頑なに拒まれた何もかもは、また元の場所に戻って、次の機会を待つ事になる。 (あんなに真っ直ぐな目を向けといて、嫌いだって言うな・・・) 目の前から居なくなった緑間の残像を眺めて、青峰は隣りの椅子を蹴り飛ばした。 握った拳を机に振り下ろして、嗤う。 冷たくて残酷な人は、いつだって嘘しか言わない。 終わり |
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2012/07/19 |
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帝光中学時代2年生。 |
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